解 説
2024年度SMC高田賞を受賞して*
鶴原 理司**
* 2025年6月1日原稿受付
* *芝浦工業大学大学院,理工学研究科,機能制御システム専攻,〒337-8570 埼玉県さいたま市見沼区深作307
線形ARXモデルに対し,提案のDF-CL法におけるパラメータ更新則は正規化勾配(以下,NG)法の更新則に蓄積データの誤差を表現した第三項目を追加することで,つぎのように表せる.
ただし,であり
は情報行列,
は補助ベクトルを表し,以下のAlgorithm
1によってそれぞれ更新される.また,
は学習ゲインを表し,
を満たすように時変で設計する.
Algorithm 1 Update law of |
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Input: |
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Output: |
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for all |
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If |
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Else |
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End if |
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End for |
つぎに,適応制御則はDF-CL法によって推定されたパラメータベクトルを利用して,つぎのように表せる.
ただし,は設計者が任意に設計する参照モデル出力であり,
は出力と参照デル出力との誤差である.
は誤差の収束速度を表す設計パラメータであり,
の範囲で設計する.さらに,式(3)のゼロ割を防ぐために,
を満たすような不感帯も導入する.
提案手法は,情報行列の列フルランク性が満たされると仮定すると,モデル化できない動特性が存在しなかった場合にはパラメータ誤差と追従誤差は指数安定性を保証され,モデル化できない動特性が存在し,その値が有界である場合には,DFの導入とその拡張によって効果的に外乱の影響を抑制することで,パラメータ誤差と追従誤差の一様終局有界性が保証される10).
本シミュレーションでは,サンプリング時間を0.01 s,を時間シフトオペレータとし,参照モデルは
,不感帯幅は
,設計パラメータは
にそれぞれ設定した.さらに,パラメータの初期値はすべて0,重み
は最適な更新となるように制約範囲の上界の半分で時変,忘却要素
でそれぞれ設定した.ただし,忘却係数の設定については試行錯誤が必要であり,
の値が1に近いほど忘却性能が高いことに注意する.本研究においてはまた,MFACは入出力の変化量の次数を同様に設定し,それに対応する疑似勾配ベクトル(勾配法におけるパラメータベクトルに対応する)の初期値は
,入力の変化量に対する重みを5,その他の値をすべて1に,それぞれ設定した.
モデル化できない動特性が存在しない場合の制御結果および推定パラメータの比較を図. 2に示す.この制御結果より,NGおよびDF-CLの両者の手法とも定常応答において十分な制御性能が得られていることが確認できる.一方で,過渡応答においては提案手法のみが制御性能の改善を達成している.間接適応制御系では,推定パラメータが真値であることを前提とするCertainty Equivalence原理に基づき設計されているため,パラメータの真値収束が重要である.しかしながら,一般にPE条件を満たさない場合には真値収束の達成は保証されず,その条件は同定入力や目標軌道に依存するため,この条件を満足することは実応用上容易ではない.提案手法は非PE条件下にも関わらず,図. 2 (b)に示すように各推定パラメータが真値へ収束していることがわかり,このことから制御性能の改善は妥当であると考えられる.一方,従来手法はPE性を満たさないためにパラメータが真値へ収束せず,目標軌道が変化するたびにパラメータ更新に影響が発生するため,過渡性能が劣化していると考えられる.
次に,非対称ヒステリシス項をモデル化できない動特性として扱い,線形ARXモデルに基づいて適応制御器を設計した結果およびそのときのパラメータ誤差のノルムの比較を図. 3,平均絶対誤差による評価結果をTable 1にそれぞれ示す.従来手法は目標軌道が変化する過渡応答において大きなオーバーシュートや振動的な応答が見られる.一方,提案手法はモデル化できない動特性が存在するにもかかわらずほとんど制御性能が劣化せず,過渡応答を大幅に改善できることが明らかになった.この結果は,図. 3 (b)において,提案手法のパラメータ誤差のノルムが十分小さい値で有界であることからも妥当であると考えられる.また,MFACはNG法ほどオーバーシュートが発生しないものの,特に目標軌道が正弦波の区間において十分に追従性能を発揮することができていない.これは,MFACの追従誤差の漸近安定性が,目標軌道が一定の場合に限定されるためである.このように,データ駆動型制御の一つであるMFACは対応可能な目標軌道に制限があり,設計者が任意に設計することができない一方,提案手法は様々な目標軌道に対して追従することができる上に,主に設計するべきパラメータはモデル構造の次数のみであるため,設計工数の削減も達成された.
本稿では,Directional ForgettingとConcurrent Learningを組み合わせた,水圧人工筋の変位制御系に対する新しい離散時間間接適応制御系について紹介し,受賞論文の概要について簡単に述べた.提案した制御系は,非対称ヒステリシスをモデル化できない動特性として扱い,線形ARXモデル構造のみから制御系を設計できるため事前のシステム同定が不要であり,モデルベースとデータ駆動の特長を併せ持つ融合手法として位置づけられる.一方で,パラメータの真値収束速度はかなり遅く,サンプリング時間を粗くした場合にはその結果が顕著に表れ,過渡性能の劣化につながる恐れがある.この問題に対して,著者らはその後の研究において,提案手法を逐次最小二乗問題へ拡張した二層忘却型RLS法11)と呼称する新しい適応同定手法を提案しており,その有効性も検証している.今後はこれらの水圧人工筋への適用および実験的な評価についても検討していきたい.
1) 小林亘,伊藤和寿 : 水道水圧駆動マッキベン型人工筋の変位制御(第1報,人工筋のモデル化およびBouc-Wenモデルの適用), 日本フルードパワーシステム学会論文集, Vol. 45, No. 6, p. 85-93, (2014)
2) Hou, Z., Zhuo W.: From Model-Based Control to Data-Driven Control: Survey, Classification and Perspective, Information Sciences Vol. 235, p. 3-35, (2013).
3) Tsuruhara, S., Inada, R., Ito, K.: Model predictive displacement control tuning for tap-water-driven artificial muscle by inverse optimization with adaptive model matching and its contribution analyses, International Journal of Automation Technology Vol. 16, No. 4, p. 436-447, (2022)
4) Takada, S., Kaneko O., Nakamura, T., Yamamoto S.: Data-driven tuning of nonlinear internal model controllers for pneumatic artificial muscles, 2014 4th Australian Control Conference (AUCC), p. 13-18, (2014)
5) Tsuruhara, S., Ito, K.: Data-driven model-free adaptive displacement control for tap-water-driven artificial muscle and parameter design using virtual reference feedback tuning, Journal of Robotics and Mechatronics Vol. 34, No. 3, p. 664-676, (2022)
6) Kosugi, A., Tsuruhara, S., Sekine, M., Ito, K., Zobel, P. B., Durante, F.: Ultra-Local Model Based Data-Driven Control for McKibben-type Artificial Muscles with Control Parameter Optimization Using VRFT, Proc. of 12th JFPS International Symposium on Fluid Power in Hiroshima 2024, 1B2-03, (2024)
7) Gang, T., Adaptive Control Design and Analysis, John Wiley & Sons, (2003)
8) Chowdhary, G., and Eric, J.: Concurrent Learning for Convergence in Adaptive Control without Persistency of Excitation, In 49th IEEE Conference on Decision and Control (CDC), p. 3674–79, (2010)
9) Cao, L., Howard, S.: A Directional Forgetting Algorithm Based on the Decomposition of the Information Matrix, Automatica, Vol. 36, No. 11, p. 1725-1731, (2000)
10) Tsuruhara, S., Ito, K.: Discrete-time Indirect Adaptive Control for Systems with Disturbances via Directional Forgetting: Concurrent Learning Approach, arXiv preprint arXiv:2409.09316, (2024)
11) Tsuruhara, S., Ito, K.: Discrete-time Two-Layered Forgetting RLS Identification under Finite Excitation, arXiv preprint arXiv:2504.19518, (2025)
つるはら さとし
鶴原 理司 君
2023年芝浦工業大学大学院理工学研究科機械工学専攻修了.同年同大学院博士後期課程機能制御システム専攻入学,日本学術振興会特別研究員(DC1),現在に至る.水圧・油圧システム制御,適応制御理論,データ駆動型制御理論とその応用研究に従事.日本フルードパワーシステム学会,計測自動制御学会の会員.修士(工学).
E-mail: nb23110(at)shibaura-it.ac.jp
URL: https://tsuruhara.net
![]() (a) 水圧回路 |
![]() (b) 実験装置外観 |
図1 水道水圧駆動人工筋システム |
![]() (a) 制御性能の比較 |
![]() (b) 推定パラメータの比較 |
図2 線形ARXモデルに対する性能比較(モデル化できない動特性なし) |
![]() (a) 制御性能の比較 |
![]() (b) 推定パラメータの比較 |
図3 非対称Bouc-Wenモデルに対する性能比較(モデル化できない動特性あり) |
表1 平均絶対誤差による制御性能の比較(モデル化できない動特性あり/なし)![]() |