随 想
2024年度学術貢献賞を受賞して*
川上 幸男**
*2025 年 7月 1日原稿受付
**芝浦工業大学システム理工学部,〒337-8570 埼玉県さいたま市見沼区深作307
縁あってフルードパワー関連の研究に携わって38年になるが,この度JFPSより学術貢献賞をいただき,身に余る光栄なことであり,心より感謝申し上げる.筆者にとってJFPSは主要な学会として活動させていただいてきたこともあり,大変嬉しい限りである.受賞に際して,学会活動にて諸先生・諸先輩からご指導いただいたさまざまなことが思い出され,非常に感慨深く感じている.これまでの教育研究活動および学会活動を振り返り,大学院時代から現在に至るまでで印象に残っていることを取り上げ,以下に紹介させていただく.
筆者がフルードパワー関連の研究を始めるきっかけは,1987年に早稲田大学大学院に在籍していたときの指導教員であった河合素直先生(現早稲田大学名誉教授)から勧められた空気圧シリンダの駆動特性を解明する研究テーマに取り組んだことに遡る.空気圧シリンダといえば,電車の扉の開閉や組立ラインのような単純なPoint-to-point動作に用いられている廉価なアクチュエータであるといったイメージしかなく,空気圧シリンダ自体そんなに研究課題が残されているとは思っていなかった.しかし,研究を始めてみると,作動流体が圧縮性のある空気であり,熱の影響などを受けやすい流体を媒体としているということから,駆動時に複雑な動的挙動が現れてくることがわかってきた.そこで,基本的な部分から空気圧シリンダの特性を洗い直してみる必要があると考え,本格的に研究に取り組み始めることとなった.当時はまだ空気圧シリンダに関しての基礎的なデータは少なかったため,実験を重ねそのデータを解析することにより動特性モデルを構築することができた.このモデルの数値計算により空気圧シリンダの複雑な動的挙動を精度良くシミュレーションできるようになり,これらの結果を纏めることにより初めての研究論文としてジャーナル誌に掲載された1).引き続きこの研究を発展させ,空気圧シリンダの高速駆動,駆動条件に関して検討・考察を行い,これらの成果を集約することにより博士論文として纏めることができ,1992年10月に早稲田大学より学位(工学)が授与された.同時にこれらの研究は本会論文誌に研究論文として採択され2)-3),幸運にも学術論文賞も受賞できた.
1992年4月に現在まで所属する芝浦工業大学システム工学部機械制御システム学科に助手として着任した.同時期に東京工業大学を定年退官された中野和夫先生(現東京工業大学名誉教)が偶然にも同学科に着任され,2002年までの10年間ご一緒させていただいた.着任先は1991年開設の新しい学部だったこともあり,ゼロから研究室を立ち上げて学生達に卒業研究の指導を始める必要があった.新しい研究テーマとして,あまり大きな設備を必要としない空気圧シリンダの制御に関連する研究を立ち上げることになった.中野和夫先生が油圧制御の分野で養われた知見から指導をいただきながら,学生達と共に実機での実験,PCを用いたシミュレーションでの検証等に取り組んだ.
年を追って空気圧シリンダの制御に関する研究について紹介する.1995年から4本での空気圧シリンダで構成されたリフタの制御に取り組んだ.当時からMATLAB®/Simulinkを用いたシミュレーションによりコントローラの性能評価を行っていたが,実験の際にはNEC社製のPC-98にCソースで実装していたため非常に手間のかかる作業だったことが懐かしい.この空気圧リフタの制御に関する研究は,ディザ,外乱オブザーバ,ロバスト制御,協調制御など様々な内容を検討した4)-6).空気圧リフタと並行して進めたのが,シリンダ単体の制御系設計である.サーボバルブに含まれる不感帯,シリンダの非線形摩擦に伴うスティックスリップ現象や目標値付近での弛緩振動,また負荷変動に関係した空気ばね特性の変化など空気圧アクチュエータは油圧や電動アクチュエータに比べ制御が難しいとされてきたが,さまざまな制御手法によりこれらを改善しようと試みた.たとえば,2000年から2003年にかけて,当時では最先端の技術となるLMI(Linear Matrix Inequality)を用い,H∞コントローラベースのゲインスケジューリングコントローラの設計,非線形制御手法の一つとなる単純適応制御によるコントローラの設計等の制御系設計問題に取り組んだ7)-9).2010年頃から近年にかけては,空気圧機器の高性能化や小型化が進み,それらを利用して多関節マニピュレータなどの設計,製作,制御系設計を行っている10)-11).部品等の設計にあたり必要となるCADは2Dから3Dへ,製作に関しては3Dプリンタなど便利になったが,制御系設計に関しては,MATLAB®/Simulinkを使用し,外乱オブザーバ,H∞ 制御,単純適応制御,スライディングモード制御など12)過去のノウハウを利用したものやE-FRITによるPIDゲイン調整13)-14)といった新しい内容にもチャレンジしている.
2007年頃から空気圧管路のモデル化に関する研究にも着手した.管路中の空気の流れの特性については古くから多くの研究がなされてきたが,基礎式が解析的に解けないことから実験的な検討が多く,その流量特性は一般的に圧縮性流体用機器の一つとしてJIS B 8390 (ISO 6358) に準じ,圧力に対して音速コンダクタンス,臨界圧力比の関係で整理されることが多い.しかし,空気は圧縮性流体であるため圧縮・膨張による温度変化の影響,さらに管摩擦の影響等が加わり,近似精度が十分でないといった問題が生じていたことが空気圧管路のモデル化の研究を始める契機となった.
具体的に取り組んだ内容についてつぎに紹介する.管路内の流れを一次元流れで捉えることにより,計算ソフトMATLAB®/Simulink®をベースとしたモデル化を提案・展開している.当初のモデルでは,熱伝達の影響は断熱と仮定したFanno流れとして捉え,その妥当性に関して検証を行った15)-16).これらの結果から,空気と管壁との温度差が大きい場合は近似精度が悪くなることが明らかになり.新たなモデルとして温度助走区間とFanno流れ区間の直列接続モデルを構築し,その有用性について実験による検証を進めて最終的に研究論文として纏めることができた17).本論文については学術論文賞の栄誉を頂くことができ,共同研究者である中野和夫先生は最高齢の受賞となる記念に残る論文となった.
2010年頃からはCFD(数値流体力学)による空気圧管路の流体解析も並行して行っている.管路内の流れを3次元で捉えることにより,実験では確認できない流れの状態についてシミュレーションで確認することが可能となった.円形管路内の速度分布,圧力分布から,音速状態や管摩擦,熱伝達の影響等が把握できる18)-19).この手法をさらに展開することにより,現在,断面が円形ではない管路内の流れの解析を行い,非円形管路の流量特性について検証を進めている20).また,CFD解析の結果と先述の一次元流れモデルの結果を比較することにより,両モデルの妥当性についての検証も行った.
学会主催の国際シンポジウムには1989年に東京工業大学で開催された第1回大会から参加している.有明で開催された第4回大会からは実行委員として運営にも携わり,バンケットで皿回しのアトラクションを企画し,外国の参加者から好評だったことが思い出される.昨年2024年の第12回大会は広島での開催であったが,実行委員長として取りまとめを担った.11ヶ国から200名以上の参加者が集い,盛況に実施することができた.広島城内の護国神社でのバンケットでは外国からの参加者が日本の伝統的な雰囲気に酔いながら,料理,アトラクションを満喫していただくことができた.このように,成功裏に終えられたことは,実行委員等の献身的な協力によるところが大きかったと実感している.
以上,これまでJFPSでの活動に関わることを振り返り,筆者のとりとめもない自分史を紹介させていただいた.筆者は年を重ねても,毎年若い学生達と切磋琢磨しながら,少しずつ研究成果を積み上げてくることができたことは自分にとってかけがいのない財産であると思っている.また,諸先生・諸先輩をはじめとする学会関係者の指導,協力によるところが大きかったことを改めて認識することができ,心より感謝申し上げる.微力ながらもう暫く学会に貢献できることを願っている.
参考文献
1) Y.Kawakami,J.Akao,S.Kawai,T.Machiyama:Some Considerations on the Dynamic Characteristics of Pneumatic Cylinders,Journal of Fluid Control,Vol.19-2,p.22-36,1988
2) 川上,野口,河合:空気圧シリンダの高速駆動に関する一考察,油圧と空気圧,第21巻3号,p.318-325,1990
3) 川上,武田,河合:空気圧シリンダの駆動条件に関する一考察,油圧と空気圧,第22巻4号,p.96-103,1991
4) 前田,川上,中野:空気圧リフタの位置制御,日本油空圧学会論文集,第30巻4号,p.89-95,1999
5) 伊藤,川上,金山,中野:4本のブレーキ付空気圧シリンダで構成された空気圧リフタの協調制御,秋季フルードパワーシステム講演会論文集,p.89-91,2004
6) 絵鳩,佐藤,川上,中野:空気圧リフタの制御手法に関する検討,秋季フルードパワーシステム講演会論文集,p.46-48,2006
7) 塚本,川上,中野:空気圧サーボ系へのスケジューリング制御の適用について,日本油空圧学会論文集,第33巻1号,p.15-20,2002
8) 村山,川上,中野:油圧サーボ系へのゲインスケジューリング制御の適用について,山梨講演会講演論文集,p.245-246,2002
9) 戸賀崎,川上,中野:単純適応空気圧サーボ系に関する研究,山梨講演会講演論文集,p.233-234,2000
10) Y.Kawakami, K.Ito, M.Ogawa, A.Horikawa, K.Shiota, K.Nagai:Development of Articulated Manipulators with Pneumatic Cylinders,International Journal of Automation Technology,Vol.5,No.4,p.478-484,2011
11) E.Murayama, Y.Yogozawa, Y.Kawakami, K.Ito, M.Ogawa, A.Horikawa, K.Shiota:Study on Control Performance with Consideration of Articulated Manipulators with Pneumatic Cylinders,International Journal of Automation Technology,Vol.8,No.2,p.159-168,2014
12) 村中,村山,川上,堀川,塩田,小川:空気圧マニュピュレータによる制御性能に関する研究,日本機械学年次大会論文集,2015
13) 黒澤,村山,川上:空気圧サーボシステムに対する E-FRIT による PIDゲイン調整方法の検討,計測自動制御学会産業応用部門大会講演論文集,p.87-90,2016
14) 黒澤,村山,川上:E-FRITを用いた空気圧サーボ系の力制御PIDコントローラ設計,日本フルードパワーシステム学会論文集,第49巻2号,p.42-48,2018
15) T.Shiraishi, E.Murayama, Y.Kawakami, K.Nakano:Aproximate Simulation of Pneumatic Steady Flow Characteristics in Tubes with Friction,Proceedings of the 8th JFPS International Symposium on Fluid Power,p.242-247,2011
16) 村山,白石,川上,中野:空気圧管路内定常流シミュレーション(断熱管路モデル),日本フルードパワーシステム学会論文集,第44巻6号,p.111-117,2013
17) 中野,伊藤,村山,川上:伝熱と摩擦を伴う空気圧管内定常流に関する研究(モデル化と実験的検証),日本フルードパワーシステム学会論文集,第53巻2号,p.19-27,2022
18) 松本,村山,川上,中野:CFDを用いた空気圧管内定常流のシミュレーション解析,秋季フルードパワーシステム講演会論文集,p.29-31,2015
19) K.Matsumoto, E.Murayama, Y.Kawakami, K.Nakano:Research on pneumatic steady flow in a tube by using CFD(Effect of flow characteristics by the cross-sectional shape of a tube),Proceedings of the10th JFPS International Symposium on Fluid Power,2D41,2017
20) 松本,村山,川上,中野:空気圧管路断面形状が定常流動特性に及ぼす影響,春季フルードパワーシステム講演会論文集,p.22-24,2018
かわかみ ゆきお
川上 幸男 君
1991年早稲田大学大学院工学研究科博士課程単位取得満期退学.1992年芝浦工業大学助手,講師,助教授を経て,2004年同大学教授,現在に至る.空気圧システム制御の研究に従事.日本フルードパワーシステム学会,日本機械学会,計測自動制御学科の会員.博士(工学).
E-mail: kawakami(at)shibaura-it.ac.jp