解 説

 

2024年度油空圧機器技術振興財団論文顕彰を受賞して*

 

名倉 忍**

 

* 20256 4日原稿受付

**横浜国立大学大学院理工学府240-8501神奈川県横浜市保土ヶ谷区常盤台79-5

 


1.はじめに

このたび,本学会のご推薦により油空圧機器技術振興財団論文顕彰をいただきましたこと,大変光栄に思うとともに,感謝申し上げます.本稿では,受賞対象論文である「デジタル油圧の建設機械向けパイロット元圧回路への応用に関する研究」1)について概要を紹介する.

2.研究概要

2.1 背景と目的

 建設機械の電子制御化が進んでいる.そのためコントロールバルブや油圧ポンプをコントロールする電子-油圧変換のための比例ソレノイド弁等の補器類が増加しており,またそれらを駆動するためのパイロット油圧源の消費流量は増加している.パイロット油圧源は油圧ショベルの一般的な操作において2から3%程度のエンジン馬力を消費しており,よりエネルギー効率の高い方法が求められている.

本研究では,作業機等を動かすメイン回路の油から減圧してパイロット油圧源とする方式において,切換弁を高速にオンオフさせて,油圧配管を流れる作動油そのものの慣性力を利用したデジタル減圧回路 Switched Inertance Hydraulic Converters(SIHC) を適用した.本論文ではメイン回路の圧力やパイロット消費流量が変動してもパイロット元圧が目標圧力を保持するための制御手法を提案し,実際の油圧ショベルの稼働状態での圧力と各データより推定したパイロット消費流量をもとに,シミュレーションを用いて制御性と,従来の減圧弁と減圧効率の比較を行った.

 

2.2 パイロット元圧回路用デジタル油圧減圧回路の概要

パイロット元圧回路用デジタル油圧減圧回路の回路図を図1に示す.図中の(a)は建設機械の作業機等を動かすためのメイン回路から分岐した減圧回路の高圧側油圧源,(b)はコントロールバルブからタンクへの油の戻り通路から分岐した減圧回路の低圧側油圧源である.(c)は高速切換弁としてのサーボ弁であり, (d)は比較的細長い配管であり,本研究の分野では「慣性配管(Inertance Tube)」と呼ばれている.サーボ弁をPWM駆動信号によって高速に切り換える.慣性配管(d)に高圧側油圧源(a)を接続すると慣性配管内の作動油は加速される.慣性配管に低圧側油圧源(b)を接続しても,配管内の作動油は慣性によって流れ続けようとし,低圧側油圧源(b)からの油を吸い込むことができる.またコントローラ(f)は,圧力と圧力と目標圧力およびアキュムレータ圧からPWMのデューティ比と周波数を演算し,PWM信号を(g)サーボ弁アンプに出力する(図2).

 

2.3 油圧ショベルへの適用のシミュレーション

パイロット元圧回路にデジタル油圧減圧回路を適用した場合のシミュレーションを行った.結果を図3に示す.図の上段枠外には油圧ショベルの代表作業である90度ダンプ積み込み作業での作業工程を示す.掘削→ホイスト旋回→ダンプ→ダウン旋回で1サイクルの作業が終了する.図の上段はメイン回路圧力(黒線),パイロット消費流量(赤線)を示す.パイロット消費流量は実機の各データをもとに推定した.図の中段はアキュムレータ圧力の目標値(黒線)と,シミュレーション結果(赤線),3段目はコントローラの出力であるデューティ比を示す.

図の中段の減圧回路の出力圧は目標圧=3.4MPaに対し変動は見られるものの,許容範囲の2.84.5MPaに制御できており,実用上問題なく使用できることがわかった.

一方,供給エネルギーに対するパイロット回路への出力エネルギーから求めた1サイクルでの減圧効率は,比較対象の従来の減圧弁のエネルギー効率=0.23に対し,デジタル減圧回路が=0.13と非常に悪いという結果となった.この原因として,負荷流量が少ない場合に,ポートより流入した油の一部が,ポートから流出(低圧源側に逆流)していることが考えられる.この対応のためには,回路にチェック弁を用いることが考えられる.より詳細なエネルギー効率悪化の原因解明と効率の改善が今後の課題である.

 

3.おわりに

受賞論文では,基本的な実験結果を用いてシミュレーションモデルの検証を行い,シミュレーション上で制御性と減圧効率の確認を行った.その結果,出力圧は許容範囲に制御出来る事が分かったが,減圧効率は従来の減圧弁に比較しても悪いと言うことが分かった.本論文の発表以降ではあるが,回路にチェック弁を設けることで減圧効率は=0.52まで上昇することをシミュレーションにより確認した2).現在も,効率の検証や,本論文中で切換弁として用いたサーボ弁に代わる回転弁の開発3)等を通じて実現可能性の検証を継続している.

参考文献

1)    名倉忍,蜩c悠太,眞田一志:デジタル油圧の建設機械向けパイロット元圧回路への応用に関する研究,日本フルードパワーシステム学会論文集,Vol. 54No. 1pp. 10-172023

2)    名倉忍, 蜩c悠太, 眞田一志: デジタル油圧の建設機械向けパイロット元圧回路への応用に関する研究-減圧効率への低圧圧力源チェック弁が及ぼす影響について,2023年秋季フルードパワーシステム講演会講演論文集, pp.69-71(2023)

3)    名倉忍,蜩c悠太,眞田一志:デジタル油圧の建設機械向けパイロット元圧回路への応用に関する研究(第2 高圧用回転弁の実験による検証),日本フルードパワーシステム学会論文集,Vol. 56No. 1pp. 1-112025

 

著者紹介

なぐら しのぶ

名倉 忍 君

1997年東京工業大学工学部生産機械工学専攻修了.同年コマツに入社.2023年より横浜国立大学大学院理工学府博士課程後期.現在に至る.建設機械の油圧システムの研究開発に従事.日本フルードパワーシステム学会会員.

E-mail: nagura-shinobu-kw(at)ynu.jp

 

 



図1 パイロット元圧回路用デジタル油圧減圧回路1)

 


図2 コントローラ(f)の構成1)

 



図3 油圧ショベルのパイロット元圧回路にデジタル油圧減圧回路を適用した場合のシミュレーション結果1)