解 説

 

名誉員を拝命して*

 

早川 恭弘**

 

* 2025610日原稿受付

**奈良工業高等専門学校 名誉教授,〒639-1080 奈良県大和郡山市矢田町22

 


1.はじめに

この度は,日本フルードパワーシステム学会の名誉員を拝命し,身に余る光栄と感謝申し上げます.また,名誉員拝命に際して,執筆の機会を与えていただきありがとうございます.名誉員は,「学会の地位を学術的,社会的に高めた者」とあります.これまで,皆様方の支えにより学会の役職を務めさせていただきましたが,学会にどれだけ貢献できたのか心もとないところです.

学会との最初の接点は,当学会の前身である()日本油空圧学会の秋季講演会だったと記憶しています.確か,講演原稿は手書きであり,図などは,墨入れで描いた記憶があります.墨入れなので,一箇所間違うと全て描き直しとなる.今は,デジタル化され簡単になったが,懐かしい思い出です.また,講演会も,必ず厳しい先生が居られ,その先生からの質問に,どのように回答するか常に緊張していた記憶があります.しかしながら,厳しい先生方に研究成果を評価していただいた時は,さらに研究に邁進していこうと思い,そのお陰もあって,研究者としての礎が築き上げられてきたと感じます.

研究分野は空気圧であり,流体素子の解析に関する研究から始めて空気圧シリンダの定速駆動に関する研究1),空気圧アクチュエータのスライディングモード制御に関する研究2) , 3),ベーン型空気圧モータのスライディングモード制御に関する研究4)ハイブリッド型空気圧・電気駆動モータに関する研究5),六面体ゴムアクチュエータに関する研究6)空気圧ベローズに関する研究,シリコン外殻型発泡ゴムアクチュエータの研究,そして,福祉介護機器に関する研究を行ってきた.次章以降では,その一部について説明します.

2.空気圧ベローズアクチュエータ7) - 11)

 ベローズは,製造方法により,成形型および溶接金属型などがあり,継ぎ手やアキュムレータなどに利用されている.特に,溶接金属型ベローズは,印加圧力Pと変位量Xに線形性を有する(図1)ことから,本研究では,溶接金属型ベローズをアクチュエータに応用している.また,ベローズは,圧力印加方法により,外圧型(図2)と内圧型(図3)に分類され,図4に示すように摺動部がないことから,摩擦力変動の影響がない.すなわち,アクチュエータに作用する外力fexを内圧pおよびベローズ変位量xから推定することができる(図5).

本研究では,開発したベローズアクチュエータの力センサ特性と市販の力センサの比較(測定レンジおよび分解能,重量と形状,温度特性,経済性と信頼性,剛性,多軸への応用)を行い,ベローズアクチュエータの力センサ性能に関して,制御機器応用への可能性を示している.また,ベローズアクチュエータは,アクチュエータ及び力センサとしての機能を有していることから,時間的に変化する外力に対し,一定の接触力を維持するようにベローズの先端位置を制御することができる.すなわち,ベローズアクチュエータの内圧および変位量により外力を推定し,その力が一定値になるようにベローズを駆動することができ,ベローズアクチュエータを力センシングアクチュエータとして利用可能である.

そこで,本研究では,ベローズアクチュエータの力センシング機能を用いて,ロボットグリッパーやロボットアームおよび自律型移乗機に応用している(図6).ここで,ロボットハンドに関しては,把持力一定の状態で,面取りを有する溝への高精度はめあい作業を実現している.また,ロボットアームに関しては,2つのベローズアクチュエータにワイヤを用いて張力拮抗させることにより回転機構を実現する1リンクロボットアームを開発している.そして,1リンクロボットアームの位置決め制御性能に関して,階層フィードバック制御を用いることにより,良好な位置制御応答波形が得られることを示している.さらに,関節駆動用ベローズアクチュエータの力センサ機能を利用することにより,付加的な力センサを利用することなく低周波外力を容易に推定できることを明らかにしている.また,自律型移乗機の研究に関しては,外圧式・内圧式ベローズアクチュエータおよび空気圧シリンダーを用いて被介護者を座位から立位させる移乗機の開発を行い,ベローズアクチュエータの力センシング機能を用いて一定力で被介護者を立位させることができることを示している

3.スポンジ・コア・ソフトラバーアクチュエータ

3.1 人間親和性を有するスポンジ・コア・ソフトラバーアクチュエータの開発12) – 17)

ゴム人工筋型アクチュエータは,加圧による形状変形をワイヤ等で拘束することにより実現している.それに対し,本研究では,ワイヤで拘束することなく加圧時の形状変形を拘束するアクチュエータの開発を行っている.開発したアクチュエータ(スポンジ・コア・ソフトラバーアクチュエータ:以下SCSRA)は,図7に示すように,連泡型発泡ゴムの全ての面がシリコーンゴムで覆われていることから,連泡型発泡ゴムとシリコーンゴムが密着している場合,加圧時における形状変形は連泡型発泡ゴムの形状に拘束され,SCSRAの剛性のみを変化させることができる.その一方,特定の面においてシリコーンゴムと連泡型発泡ゴムを剥離させた場合,指定された面のみ膨張変形させることが可能となる.安全性の面においても,内部に連泡型発泡ゴムを有していることから,連泡型発泡ゴムの弾性によりSCSRA破裂時における衝撃を吸収することができる.すなわち,連泡型発泡ゴムを身体の形状に成形し,シリコーンゴムで密着コーティングすることにより,転倒時の衝撃を吸収する身体防護要素として活用することができる.このように,SCSRAは,人間親和性を有する要素であり,福祉介護機器への利用が可能となる.

3.2 安定歩行用高機能中敷きと歩行訓練システムの開発18) – 25)

介護予防のために手軽な健康維持手段として,ウォーキングが注目されている.歩行は自分のペースで行うことができ,若年から高齢者まで幅広く気軽に楽しむことができる.しかしながら,高齢者は下肢の筋力低下に伴い,骨盤と大腿骨の角度に変化が生じることから,歩行時における重心位置が靴の外側に移動する.その結果,接地環境により重心バランスが崩れ,転倒してしまう危険性がある.そこで,歩行時において,身体を拘束せずに身体に刺激を与え,歩行時のバランスを矯正させるための要素としてSCSRAを靴中敷きに応用した歩行訓練用システムに関する研究を行っている(図8).具体的には,足裏部へ刺激を与えるための中敷き用要素及び足部圧力分布測定用センサ(つま先,内足,外足,踵の4箇所に搭載)としてSCSRAを使用している.そして,歩行訓練システムの流れは,[Step1] 足部圧力分布測定用センサにより,歩行訓練者の歩行の癖(足裏部圧力分布の変化)を明らかにする.[Step2]理学療法士(以下PT)が,歩行訓練者の足裏部歩行バランスをタブレット端末装置により確認する.[Step3]PTが理想的な歩行パターン(足裏部圧力分布パターン)を歩行訓練者に直接教示するために,タブレット端末装置に表示された足裏各部位の該当する箇所をクリックすることにより,靴中敷き部に配置した刺激用SCSRAを膨張変形させる.そして,訓練者足裏部に理想的な歩行パターンを実現するための刺激を直接与える.すなわち,PTは歩行訓練者に対し,中敷き部に配置したSCSRAの形状変化による触覚を与えることで,直感的な歩行アドバイスを行うことができる.これは,歩行訓練者に足裏部のどこに力を入れて歩くべきかを足裏の感覚として提示し, 正しい歩行を意識して訓練することに繋がる. このように, 歩行の矯正を行うことにより, 普段使わない筋肉が使われることで筋力の回復も期待できる.

さらに,歩行訓練システムは,歩行訓練者が歩行時の足裏部歩行パターンの状態を視覚的に確認するために,透過型拡張現実(AR)グラスに歩行時足裏分布圧力変化を提示させる.すなわち,歩行時における足裏分布圧力変化を歩行訓練者自ら確認することで,歩行パターンの問題点を具体的に把握することができる.

本歩行訓練システムでは,靴中敷き部以外に,足部歩行を訓練するためのゴム人工筋装具および自動歩行機の開発も行っている.

3.3 認知症予防・発症判断・進行抑制に関する歩行システムの開発26) - 28)

本研究では,認知症予防・発症判断・進行抑制のための自立型歩行システムの開発を行っている(図9).一般に,認知症は記憶障害を伴うアルツハイマー型が最も多く,睡眠障害を伴うレビー小体型,言語理解能力の低下を伴う前頭側頭型,脳梗塞を伴う血管性型に分類され,各パターンにより歩行状態に違いがある.具体的には,歩行時において,歩幅が狭くなり,摺足歩行,歩行速度の低下などがみられる.そこで,3.2節で開発した歩行訓練システムに,加速度およびジャイロセンサを追加し,足の加速度・角速度の測定を行うことにより,足圧や足の動きを無線にてタブレット端末装置,ARグラス,データ保存用のサーバーへと送信する.そして,被験者及びPTは,これらの端末装置から歩行状態を視覚的に確認する.

本研究では,認知症発症判断のために,歩行時の行動を推定するシステムを開発している.行動は,1) 立位,2) 座位,3) 通常歩行,4) 転倒リスクの高い歩行(すり足歩行)とし,教示あり機械学習を用いて,歩行システムで計測したデータから4つの行動を推定し,その予測精度の検証を行なっている.ここで,機械学習には,ランダムフォレスト(以下RF),k近傍法(k-NN),人工ニューラルネットワーク(ANN)を用いている.また,これらの機械学習アルゴリズムの構築には,機械学習ライブラリであるScikit-learnを使用している.さらに,分類精度を評価するために,抜き交差検証(leave-one-person-out cross validation)を行なっている.また,交差検証試験では,被験者の一人をテストデータ,他の一人を訓練データとして設定し,分類精度を検証している.そして,全ての被験者がテストデータとなるように複数回の学習を行い,平均分類精度を算出し,最も分類精度が高い組み合わせを明らかにした.ここで,データパターンは,(I)生データ,(II)50ms前のデータとの差分,(III)データの平均値,(IV)データの最大値,(V)データの最小値,(VI)データの中央値である.また,(III)から(VI)の値は250msのデータに基づいている.実験結果より,最も分類精度が高かった組み合わせは,(I)(III)を組み合わせたデータをRFで予測した場合となることを明らかにしている.

さらに,認知症予防および進行抑制のためには,足指グリップ力が重要であることから,グリップ力を計測可能な靴中敷きを開発している.また,認知症予防のための取り組みとして,平行棒を保持し歩行しながらARグラスを用いた二重課題トレーニングを行い,その有効性を検証している.


4.おわりに

名誉員の拝命にあたり,これまでの研究活動を振り返った.小職の研究は,流体素子,空気圧シリンダなどの基礎研究から始まり,介護予防および介護機器への空気圧利用を行なってきた.人間との接触を伴う作業に対し,人間親和性の観点から空気圧は非常に有効である.特に,空気圧アクチュエータは,実験室内でも試作開発することが可能であり,今後の更なる開発が期待される.

最後に,研究活動を通して多くの方々との出会いがあり,親交を深めさせていただいた.学会運営にご尽力くださった関係者の皆様,事務局の皆様及びフルードパワーに係わる研究者の皆様に,改めて心から感謝申し上げます.

参考文献

1)    宮田,早川,花房:空気圧シリンダの定速駆動に関する研究,日本油空圧学会誌, Vol.20, No.3, p.240-246 (1989)

2)        PandianHayakawaKanazawaKamoyamaKawamura: Practical Design of a Sliding Mode Controller for Pneumatic Actuators, ASME J. Dynamic Systems, Measurement, and Control, Vol.119, No.4, p.666–674 (1997)

3)    Pandian,武村,早川,川村:空気圧シリンダのための適応モデル規範型スライディングモード制御の実用的な設計法,日本油空圧学会論文集,Vol.31,No.4,p.107-114(2000)

4)    武村,早川,川村:ベーン形空気圧モータのモデリングとスライディングモード制御,日本機械学会論文集(C編),Vol.66,No.652,p.3939-3946(2000)

5)    武村,Pandian,早川,川村:ハイブリッド型空気圧・電気駆動モータの設計と制御,日本機械学会論文集(C編), Vol.68, No.665, p.117-124(2002)

6)    川村,清水,玉井,早川:Hexahedron Rubber Actuator (HRA) の開発,日本ロボット学会誌,Vol.16,No.3,p.369-375(1998)

7)    早川,川村: 空気圧ベローズアクチュエータの基本性能と力センサーへの応用, 日本ロボット学会誌,Vol.11,No.5,p.756-764(1993)

8)    早川,川村: 拮抗形空気圧ベローズアクチュエータの基本性能, 日本機械学会論文集,Vol.61,No.581,C,p.115-123(1995)

9)        Hayakawa and Kawamura: Pneumatic Bellows Actuator with Force Sensing Ability and Its Application to a Pneumatic Robot, Journal of Robotics and Mechatronics, Vol.7, No.6, p.474-482 (1995)

10) 早川,川村,後藤,永井:力センシング機能を有する空気圧ベローズによるロボットマニピュレータ用回転駆動機構の開発,日本ロボット学会,Vol.14,No.2,p.271-278(1996)

11)    Hayakawa, Pandian and Kawamura: Development of an Autonomous Transfer Machine using Pneumatic Actuators, JSME International Journal, Series C, Vol.47, No.2, p.602-609 (2004)

12) 早川,森下,相血,津田:空気圧シリコン外殻型発泡ゴムアクチュエータの開発,日本機械学会論文集(C編),Vol.70,No.690,p.433-439(2004)

13)    Hayakawa and Morishita: Development of a Silicon Outer Fence Mold Actuator with Human Compatibility, Proceedings of the 2004 IEEE International Conference on Robotics & Automation, p.4059-4064 (2004)

14)    Hayakawa, Morishita, Hata and Hirota: Development of a Body Protection Orthosis by Using Silicon Outer Fence Mold Actuator, Proceedings of the 2004 IEEE International Conference on Control Applications, p.1147-1152 (2004)

15)    Hayakawa, Pandian: Development of a Hybrid Element by using Sponge Core Soft Rubber Actuator

Proceedings of the 2005 IEEE International Conference on Robotics and Automation, p.540 (2005)

16)    Nakanishi, Hayakawa, Kida and ICHII: Development of Silicone Outer Shell Type Pneumatic Soft Actuator,    Proceedings of the 11th JFPS International Symposium on Fluid Power (2020)

17)    Hayakawa, Nakanishi and Ichii: Development of Silicone Outer Shell Type Pneumatic Soft Actuator, JFPS International Journal of Fluid Power System, Vol.15, No.2, p.40-45 (2022)

18)    Hayakawa and Ikeda: Study on a New Type of Sole for a Health Care Implement, Proceedings of IASTED International Conference on Robotics and Applications, Germany, 563-018 (2007)

19)    Hayakawa, Hikita, Tsujioka and Nishida: Study on a High Performance Insole with Human Compatibility, Proceedings of the 7th JFPS International Symposium on Fluid Power TOYAMA (2008)

20)    Hayakawa1 and Nishida: Study on a High Performance Shoes by using Silicon Rubber Elements with Human Compatibility, Proceedings of the World Congress on Medical Physics and Biomedical Engineering, p.1-4 (2009)

21)    Hayakawa: Study on a High Performance Insole with Human Compatibility, Proceedings of 5th European Conference of the International Federation for Medical and Biological Engineering, p.810-813 (2011)

22)    Hayakawa: Development of Walking Training System using High-Performance Shoes, Proceeding of 6th European Conference of the International Federation for Medical and Biological Engineering (2014)

23)    Hayakawa, Kawanaka, Kanezaki, Minami and Doi: Study on Presentation System for Walking Training using High-Performance Shoes, Journal of Robotics and Mechatronics, Vol.27, No.6, p.706-713 (2015)

24)    早川,林:福祉の現場から 人間親和性を有する介護ロボット及び歩行訓練システムの開発,地域ケアリング,Vol.18,No.8,p.77-82(2016)

25)    Hayakawa and Nagata: Study on Walking Training System for Using High-Performance Shoes with Human Compatibility, Proceedings of the 10th JFPS International Symposium on Fluid Power Fukuoka (2017)

26)    Hayakawa and Kimata: Study on high-performance shoes for walking training system with human compatibility, Proceedings of the 15th International Conference on Fluid Control, Measurements and Visualization (2019)

27)    Hayakawa and Kimata, and Kida: Study on Human Behavior Classification by using High-Performance Shoes equipped with Pneumatic Actuators,Journal of Robotics and Mechatronics, Vol.32, No.5, p.947-957 (2020)

28)    Hayakawa, Kida, Nakanishi, Ichii, and Hirota: Development and Application of Silicone Outer Shell Type Pneumatic Soft Actuators, Journal of Robotics and Mechatronics, Vol.34, No.2, p.444-453 (2022)

 

著者紹介

はやかわ やすひろ

早川 恭弘 君

1984年立命館大学理工学研究科博士前期課程機械工学専攻修了.2023年独立行政法人国立高等専門学校機構奈良工業高等専門学校電子制御工学科名誉教授.社会福祉法人天寿会理事.福祉工学,介護ロボットの研究に従事.日本フルードパワーシステム学会などの会員.博士(工学)

E-mail: hayakawa(at)ctrl.nara-k.ac.jp

 

 



図1 外圧型ベローズアクチュエータの基礎

図2外圧型ベローズアクチュエータ

 


図3 内圧型ベローズアクチュエータ

図4 ベローズアクチュエータ挙動

 

図5 ベローズアクチュエータの力推定性能

 


(a) ロボットグリッパー

(b) ロボットアーム

(c)自律型移乗機
図6 ベローズアクチュエータ応用

 

図7 スポンジ・コア・ソフトラバーアクチュエータ (SCSRA)

 

図8 SCSRAを用いた安定歩行訓練システム

 


(a) 歩行訓練システム

(b) 認知症判断用中敷き

(c) 認知症予防・抑制用中敷き
図9 認知症予防・判断・抑制のための歩行訓練システム