資 料

 

機能性流体FPSのフロンティア展開に関する研究委員会*

 

中野 政身**

 

* 2025616日原稿受付

**SmartTECH Lab.981-0954 宮城県仙台市青葉区川平3-42-30

 


1.本研究委員会の概要

ER(Electro-Rheological)流体,液晶,EHD(Electro-Hydro-Dynamic)流体・ECF(Electro-Conjugate-Fluids)MR(Magneto-Rheological)流体,磁性流体(Magnetic Fluid, Ferrofluid),磁気混合流体(Magnetic Compound Fluid: MCF)及び機能性ソフトマテリアルなどは,電場や磁場などの外場に反応して流体の物理化学的性質が変化する機能性を示す機能性流体である.フルードパワーの分野においても,機能性流体を活用したフルードパワーシステム(機能性流体FPS)が種々提案され,振動制御,車両,ロボティクス,MEMS,アクチュエータ等の分野等において研究開発及び実用化の事例も数多く見受けられる.このような機能性流体FPSは,スマート化,高性能化,小型化,高機能化,省エネルギー化,クリーン化,低振動・低騒音化,高い信頼性や安全性の確保など,フルードパワーシステムに特徴的な優位性を付与でき,その技術のブレークスルーを牽引する高いポテンシャルを有している.本研究委員会(委員長:中野政身,幹事:吉田和弘,副幹事:竹村研治郎,柿沼康弘,委員24名)は,車両,生産・加工,福祉・医療,土木・建築,航空宇宙などの種々の分野において機能性流体FPSのフロンティア展開を図ることを目的に,20224月に設置され,研究テーマの設定と実施,及び研究成果発表を行なうなどして,活動を展開してきている.

2.2024年度の研究活動

本研究委員会の3年目である2024年度は,第7回から第9回の研究委員会を開催して,委員からの話題提供や外部への依頼講演などを実施して調査研究活動を展開して来ている.以下に,各回の研究委員会で講演があった研究成果のテーマとその概要等を列挙して研究活動の報告とする.

2.1 第7回研究委員会(2024912(), 中央大学後楽園キャンパス,13名参加)

(1) 機能性流体ERFを用いたマイクロアクチュエータに関する研究(東京工業大学:吉田和弘 幹事

 まず,流量を下げ配管およびアクチュエータの細径化を図るため,1 MPaの高圧力を制御できる,液晶系ER流体(ERF)を用いたMEMSバルブについて紹介された.MEMSバルブの耐圧試験の結果が示され,長さ2 mm,幅0.9 mm,高さ0.15 mmの電極付き流路2個を有するデバイスが設計,試作され,実験により0.9 MPaの圧力における動作と,高せん断速度における液晶分子の配向の乱れによるER効果の低下が示された.次に,せん断速度の上限値を設けたERマイクロバルブが設計,試作され,0.9 MPa供給圧力時の0.24 MPaから0.72 MPaまでの圧力制御が確認された.また,ゴムチューブとコイルばねを用いた長さ10 mmのアクチュエータが接続され,7.6 mmの伸長動作が示された.最後に,超小型のため柔軟性を阻害しないERバルブを搭載したソフトマイクロフィンガについて紹介された.せん断速度を抑えるため広げた流路をつづら折りとした積層形ERマイクロバルブが提案され,ワイヤ放電加工により2 ´ 2 ´1.5 mm3サイズで試作された.これを組み込んだ長さ15 mmのフィンガの動作が示された.

(2) 機能性流体を用いた全身装着型力覚提示装置の開発(中央大学:中村太郎 委員

空気圧ゴム人工筋とMR流体ブレーキを組み合わせた力覚提示装置について紹介された.まず,ゴムチューブの軸と平行に強化繊維を埋め込んだ収縮形空気圧ゴム人工筋について説明があった.質量50 gで,0.55 MPaの圧力印加時に2.7 kNの力を発生でき,80万回の耐久性がある.また,長い繊維を螺旋状に短い繊維を軸方向に配向させた伸長形空気圧ゴム人工筋についても説明があった.世界トップクラスの530 %の伸長が直径をほとんど変えずに得られる.次に,収縮形空気圧ゴム人工筋とMR流体ブレーキを組み合わせ,弾性係数と粘性を制御できる可変粘弾性アームについて説明があった.また,拡張現実のため,視覚に加えて力覚も提示するフィジカルインタラクションについて説明があった.MRクラッチを用いた可変粘弾性のハプティックインターフェイスとその応用事例も紹介された.最後に,AR/VR空間において用いるMR流体ブレーキと人工筋を組み合わせ応用したウェアラブルな全身装着型力覚提示装置について説明があった.具体的には,腕の動作に関係する上肢力覚提示装置,水中歩行の再現などに関係する下肢力覚提示装置,数 cmの上下運動で200 mの落下を提示するシューズなどが紹介された.

 (3) 大型軸流ポンプ駆動用のMR流体軸継手の開発と実装SmartTECH Lab.:中野政身 委員長

大型立軸軸流ポンプとその駆動源としてのインダクションモータとの軸継手部にMR流体クラッチを活用したMR流体軸継手を適用することで,インバータと同様に速度制御も可能で,かつ省エネでコストも低減できることが提示された.一方,同様な機能を有する流体継手が紹介され,流体継手では入力軸の回転以上に出力を上げることはできないが,提案するMR流体軸継手では入力軸と同等の回転まであげることができることとか小型化が可能であるなどのメリットがあることも付け加えられた.このような背景のもとに,口径f350mmの立軸軸流ポンプ(軸動力75 kW)を対象に,外形がf384mm×111mm,コイル電力100W以内でコイル電流I=2.2A印加時に400Nmの軸トルクを出力可能なMR流体軸継手を設計し製作している.その定常特性ならびに過渡特性を調べた結果が報告された.設計時にFEM電磁場解析を通じて,渦電流を抑え,I=2.2A400Nm以上の出力が達成できることを確認している.定常トルク特性は,回転数依存性は少なく,コイル印加電流に応じて伝達トルクは線形的に増加することが示された.また,過渡的応答も設計時と同程度で時定数54ms(立上がり時)であった.次に,開発したMR流体軸継手を試験用の立軸ポンプのポンプ性能試験システムに適用することによって,実装試験が実施された.MR流体軸継手へ矩形波,三角波,及び台形波のコイル印加電流を与えることによって,MR流体軸継手のクラッチング,及び滑り連結(差回転有)特性が明らかにされ,それに応じてポンプ流量,ポンプ水頭,発生トルク等が安定的に変化して出力され,またMR流体軸継手の振動レベルも低減していることが示された.

(4) 中央大学理工学部精密機械工学科中村研究室の見学

 中村委員より現在実施しているプロジェクトを含め研究室の概要説明があった.共同研究を20件以上,スタートアップ会社も立ち上げて進めている.説明後に中村研究室の見学を行った.種々の空気圧人工筋や応用事例としてミミズロボット,腸内運動をするロボット,それらを用いたVRAR技術について見学した.

2.2 第8回研究委員会(20241226(), Zoomによるオンライン開催,21名参加)

(1) 機能性材料EAMを応用した上肢リーチ動作用リハビリテーション装置の開発(東京電機大学:三井和幸 委員

 まず,三井研究室の概要が紹介された.次に,脳血管疾患による片麻痺患者の日常生活改善のため,テーブルを拭くような上肢リーチ動作によるリハビリテーション装置の有効性が指摘され,使用場所を限定しない,負荷調整可能,長時間連続駆動可能といった特性の実現を目指すことが示された.そこで,ER流体の分散粒子をシリコーンゴム内に分散した構造で,大きな吸引力と大きなせん断力を発生できるEAMElectro Attractive Material)のA4サイズのシートを同サイズの電極板の上に置き,底部に電極板を有しEAMの上をスライドさせる操作部の摩擦力を制御する装置を開発している.まず,操作部をPCマウスとした装置を開発し,電圧で制御可能な十分な摩擦力,9 V乾電池で5時間駆動可能などの特性を実験的に確認している.次に,被験者のモチベーションを向上するため,様々な形状の操作部を用いるとともに,走査面を分割し摩擦係数を場所により変える構造とし,ゲームの要素を取り込んだ装置を開発している.さらに,振動刺激を与えるために,EAMに印加するPWM信号の搬送周波数を落とした装置を開発し,その特性を明らかにしている.

 (2) Investigation of variable stiffness rubber joints in trains based on magnetorheological technology中国科学技術大学研究員/東北大学共同研究員:Gong Ning

新幹線などの高速鉄道で高速直進動作とカーブ時動作において,車輪部には異なる剛性が求められる.そこで磁気粘性エラストマー(MRE)を応用してボギー部のジョイントにおける剛性を変化させる機構を検討している.数値解析により,磁気回路や構造の設計を実施し,ボギージョイントの構造を決定した.70%の粒子濃度のMREは剛性の変化が線形で好ましい特性を示した.また,ラバーマトリクスはシリコーンゴムとPDMSを比較し,PDMSを用いた.MREラバージョイントのプロトタイプを製作したところ,55%の剛性変化を確認した.次に数理モデルを検討している.暗黙的なBouc-Wenモデルに比べ,提案したハイパボリックヒステリシスモデルは明示的でパラメータも少ないため有効である.モデルを確立した後,動的評価を行った.電力供給がない場合,MREジョイント内の永久磁石により高剛性を実現でき直進運動では高い高速安定性を確認した.カーブ動作時にMREジョイントのコイルに電力供給することで剛性を低下させることができ,アタック角を下げることに成功している.次に最新のMREMRFダンパを統合したジョイントにおける研究紹介があった.最大7500Nほどの減衰力が発生し,最小剛性に対する最大剛性の変化割合は475%であることを確認している.交通性や動的評価の結果,車体の横加速の低減や車輪の摩耗抑制にも効果があることを確認している.

 (3) EHDポンプを応用した人工筋肉の開発(東京電機大学:武井裕輔 委員

自己紹介の後,これまで取り組まれた研究からEHD現象を利用した人工筋肉に関して概要が紹介された.はじめに,EHD現象とこれを利用したEHDポンプの構造と特徴が示された.つぎに,EHDポンプを利用した止血装置(ターニケット)が簡単に紹介された後,本題であるEHDポンプを利用した人工筋肉に関する研究成果が紹介された.McKibben型人工筋の課題を解決するために,双方向型EHDポンプによる駆動を提案している.双方向ポンピングにより,人工筋の材質と形状を工夫することが可能となり,蛇腹型の低弾性膨張体で構成した新たな人工筋肉を提案している.試作した人工筋肉を駆動し,発生力と収縮率を計測した結果が示された.直径30mm程度のプロトタイプに40 kPa印加時の発生力は約35N,収縮率は約38%である.また,この人工筋肉を利用した拮抗駆動型ロボットハンドおよびアームが紹介された.拮抗駆動によって,タンクが不要であり,電気的配線のみが必要で流体回路はハンドの中での閉鎖系となる.最後に,人工筋肉の収縮力が収縮率によらない設計上の工夫が紹介された.その他の研究事例の紹介として,EHDポンプの高流量化の検討を行い,流路幅を拡大した事例も簡単に紹介された.

2.3 第9回研究委員会(2025319(), Zoomによるオンライン開催,18名参加)

(1) MR流体・MRグリースを用いた制御装置とその制御則の開発横浜国立大学:白石俊彦 先生

振動学と生物に関係する研究を行っている研究室の紹介の後,まず,MRグリースを用いたセミアクティブダンパが紹介された.MRグリースは,基油に増ちょう材の3次元網目構造を形成し磁性体微粒子を固定化したもので,粒子の沈殿がなく,シールが不要である.平行を保ち運動する平板間にMRグリースを注入したせん断型ダンパが試作され,印加磁界による制動力の大きい変化,制振特性の不変性などが実験的に示された.次に,遅れがあるセミアクティブダンパに対する新しい制御則が紹介された.従来の疑似スカイフック制御則では遅れの影響があることが指摘され,共振周波数を含むしゃ断周波数以下ではセミアクティブダンパをオン,しゃ断周波数以上ではオフとする,遅れの影響を抑えた新しい簡便な制御則が開発され,シミュレーションと実験によりその有効性が示された.最後に,MR流体を用いたMRブレーキを応用した片麻痺者用側方転倒防止装具が紹介された.足首の外側の位置にシリンダ型MRブレーキを垂直に配置し,そのロッドを接地させた構造で,体の傾きをこのロッドで補償する.実証試験のうち機器開発段階,健常者1名の試験による0相,健常者10名程度の試験による1相までを目標とした開発が行われ,試作機の有効性が示された.

(2) 磁気混合流体を用いた円筒ならびにポケット形状部品の精密研磨法富山工業高等専門学校:山本久嗣 委員

MR流体と磁性流体を混合した磁気混合流体(MCF)などの研究を行っている研究室の紹介の後,まず,MCFに非磁性体の砥粒を混合した流体を用いた円筒内面の精密研磨法について紹介された.円柱型ツールの一部に軸方向に磁化された永久磁石を設置し,その周囲にMCFを保持した構造で,研磨対象となる円筒内面に対し同軸回転させ研磨する同軸加工と,ツールを偏心運動させて研磨するヘリカル加工を行い,それぞれの研磨結果に対し,せん断速度をパラメータとして,加工量,表面粗さの変化,真円度の変化,および形状の変化について評価している.その結果,同軸加工の方があるせん断速度で高い研磨性能が得られること,ワーク角部の形状についてはヘリカル加工の方が維持されることなどが示された.また,円筒内面研磨について可視化実験を行った結果として,磁気クラスタの形状のせん断速度に対する変化が示され,上記の研磨結果と関連して説明された.次に,高硬度材料のポケット形状部品の内面研磨のため,磁場によりMCFを保持するとともに,MCFが絶縁性であるため印加できる電界を用い非磁性体の砥粒を凝集させた精密研磨法について紹介された.その研磨加工実験を行い,その有効性が示された.

(3) ミニチュアMR流体ブレーキとフェールセーフMR流体ブレーキ(大分大学:菊池武士 委員

スマートマテリアル,医療福祉ロボティクス,ヒューマンスキル計測などの研究を行っている研究室の紹介の後,まず,手術支援ロボットなどのハプティックデバイスのため手中に収まるミニチュアMR流体ブレーキが紹介された.トルク0.2 N×m,質量50 gを目標とし,MR流体としてはLORD社製と栗本鐵工所製のものが使用された.構造として単層ディスク型,多層ディスク型,カップ型が取り上げられ,シミュレーションによる比較検討の結果,カップ型が採用されている.コイルをステータ側に配置することにより低慣性,小型・軽量で,十分なトルクが得られる直径30 mm,高さ19 mmのミニチュアMRブレーキが設計,試作され,その特性が実験的に示されるとともに,その応用システムについて紹介された.次に,フェールセーフMR流体ブレーキについて紹介された.これは,永久磁石の磁場に電磁石の磁場を加算または減算しMR流体に印加する構造で,停電による電源喪失時にも永久磁石による磁場により低いトルクを発生することで高い安全性を保つものである.リングを切断した形状でリング面の任意方向に磁化された永久磁石の適切な角度がシミュレーンにより示された.その結果を基に試作が行われ,実験によりその試作機の特性が示された.

3.本研究委員会の研究成果報告書の発刊と新規基盤研究委員会の設置

本研究委員会は,2025331日をもって3年間の設置期間が満了しました.現在,20259月発刊を目標に本研究委員会の研究成果報告書(電子版)の作成に取り組んでいる.

20254月より,新たに「機能性流体スマートフルードパワーシステムに関する基盤研究委員会」(委員長:中野政身,代表幹事:吉田和弘,幹事:竹村研治郎,柿沼康弘)が設置されました.機能性流体を用いたフルードパワーデバイス及びシステムは,その機能性流体のもつ固有の機能を有効に活用することによって,従来になかった機能をもち,かつ高性能化,小型化,高機能化,高速化,さらには知能性など特徴的かつ有意な優位性が付与される可能性を有しており,フルードパワーシステムのスマート化が志向される.本基盤研究委員会では,車両,生産・加工,福祉・医療,土木・建築,航空宇宙などの種々の分野において,機能性流体を活用したスマートフルードパワーデバイス・システムの構築を目的に,研究テーマの設定と実施,及び研究成果発表などを行い,研究活動を展開する予定である.委員として参加を希望される方は学会事務局あるいは委員長までお申し出ください.

著者紹介

なかの まさみ

中野 政身 君

1982年早稲田大学大学院理工学研究科博士後期課程修了,工学博士.1981年早稲田大学助手,1982年山形大学助手,助教授を経て,1997年同教授,2008年東北大学教授流体科学研究所,2018年同教授未来科学技術共同研究センター,2023年慨martTECH Lab.代表取締役社長兼CEO. 機能性流体,流体関連振動・騒音,振動制御などに関わるスマート流体制御システム工学に従事.日本フルードパワーシステム学会(名誉員),日本機械学会(名誉員),自動車技術会,日本レオロジー学会(終身会員)などの会員.JABEEフェロー.

E-mail: mnakano(at)smarttech-lab.com