展 望
「2025年度学会誌のレビュー」*
村松 久巳**
* 2026年6月28日原稿受付
**沼津工業高等専門学校,〒410-8501静岡県沼津市大岡3600
本学会は学会誌「フルードパワーシステム」を隔月に発刊しており,本年度は第56巻第3号(5月号),第4号(7月号),第5号(9月号),第6号(11月号),第57巻第1号(1月号),第2号(3月号)に加えて,8月に緑陰特集号Vol.56 No.E1(本学会HPにおいて電子版公開,https://jfps.jp/03_02.html)を発行した.各号において,フルードパワーシステムに関連する研究や技術の紹介記事を多角的な視点から構成した特集を組んだ.この他に,会長と副会長の挨拶,会議報告,トピックス,研究室紹介,連載した教室 制御工学,フェローの声,企画行事の記事を会員に提供している.トピックスにおいては,駐在員日記,youは日本をどう思う?などの記事があり,学生会員やフレッシュマン諸氏に読みやすい内容を掲載した.以下の第2章では学会誌各号の概要について紹介する.特集題目と解説記事の題目をかぎかっこ内に記す.
本特集は磁気機能性流体について6件の解説記事を掲載している.
「磁性流体の物理と化学」磁性粒子の分散安定性,磁性体のサイズ効果,磁性体ナノ粒子の合成について詳説している.
「磁気混合流体を応用した研磨における加工除去量特性−流体力学的特性を用いた除去深さ分布の予測−」磁気混合流体を用いた研磨の原理,丸型永久磁石工具による研磨加工,加工除去深さの予測を解説している.
「磁気混合流体を応用した円筒内面マイクロ加工技術」磁気混合流体と永久磁石工具を用いた円筒内面マイクロ加工技術の原理,円筒内面加工実験,磁気混合流体の加工液の観察について説明している.
「ハイブリッド流体(HF)とその最前線」ハイブリッド流体の開発とその工学的応用例について解説している.ハイブリッド流体は,磁気混合流体から発展して考案された新しい磁気機能性流体である.
「粒子分散系磁気機能性流体の基礎と応用」感温性磁性流体を用いたエネルギー変換技術と,水ベース磁性流体を用いた水電解技術について解説している.
「磁性流体の熱流動特性と流動場計測」磁性流体の強制対流熱伝達と超音波による流速計測法を紹介し,乱流状態の磁性流体の熱流動特性について解説している.
本特集はロボットハンドに関する7件の解説記事を掲載している.
「ラバーアクチュエータを活用したソフトロボットハンドの把持特性」McKibbenの構造を有する湾曲型ラバーアクチュエータの構造とその特性を説明するとともに,このアクチュエータを用いたソフトロボットハンドの把持特性について述べている.
「近接覚センサ内蔵型ロボットハンド“Think hand F”」ロボットハンドの構成と内蔵した近接覚センサと把持戦略を説明し,フィードバック制御ベースの位置・姿勢制御の効果を検証している.
「力拘束と形態拘束を活用したソフトグリッパ」改質MR流体グリッパを利用するパラレルグリッパとフィンガータイプグリッパの開発を紹介している.さらにより簡易な構造であるソフトグリッパの開発と,3Dプリンティングを活用したソフトグリッパの設計手法を説明している.
「バネとリンク機構を用いた定把持力空気圧グリッパ」クリスティー式サスペンション機構を応用した定把持力グリッパの開発を述べている.さらに定把持力グリッパに空気バネを用いて,目標把持力を可変にできることを説明している.
「非接触グリッパ」グリッパの原理とリフト力の特性について説明し,センサ,ストッパなどのグリッパに付加する部品を紹介し,その機能について説明している.
「マグネットグリッパ」グリッパ内部に永久磁石を設け,エアを駆動源にした構造のものを紹介している.永久磁石の仕組みと種類について述べて,永久磁石による磁束密度のシミュレーションと吸引力を説明している.
「油圧タフ多指ロボットハンドの複腕建設ロボットへの搭載と評価試験」ハンド指の構造とハンドの油圧系,制御系と操作方法を詳説し,建機ロボットに油圧タフ多指ロボットハンドを装着した試験であるハンドモードとバケットモードの試験結果について説明している.
令和7年度のフルードパワー技術に関する展望を油圧分野,空気圧分野,水圧分野および機能性流体分野の研究動向を解説している.また,小特集「日本フルードパワーシステム学会賞受賞者および研究委員会の紹介」には,学術論文賞,技術開発賞,SMC田賞,学術貢献賞,技術功労賞,油空圧機器技術振興財団論文顕彰の各受賞者および名誉員による解説と随想を掲載するとともに,4件の研究委員会の活動を報告している.
本特集は商品化に関する技術と開発について6件の解説記事を掲載している.
「スマートフォンを用いた油圧作動油の簡易劣化診断」スマートフォンを用いて撮影した画像から作動油の劣化度と汚染度を診断する技術について説明している.
「TOKUFASTbot(トクファストボット)に関する開発秘話」高性能モーター製造に使用される巻線機の高速かつ高精度位置決め技術とAIによる画像処理技術を詳説し,これらを活用したパズルキューブ早解きロボットTOKUFASTbotの開発秘話を述べている.
「水グリコール系作動液のリサイクル技術」国内の潤滑油のリサイクル動向に加えて欧州・米国におけるリサイクルを説明して,水グリコール系作動液のリサイクル技術の概要と課題を解説している.
「水圧パワーユニットと水圧バルブ」水圧バルブを用いた水圧パワーユニットについて説明している.水圧バルブに用いる5種類のバルブを取り上げて,水を遮断する技術とその特性について解説している.
「ピーク圧力を利用したエアブローによる省エネ手法」ピーク圧を利用するインパクトブローガンの構造を解説し,インパクトブローの効果とこのブローガンのアプリケーション事例について説明している.
「センサレス技術によるソレノイド変位検出と制御可変機構」電磁弁内の可動鉄心の位置推定をコイル駆動波形から推定する方法を解説している.さらにセンサなし比例弁における流量−弁差圧の特性を説明し,この特性を可変できるセンサなし比例弁の開発を紹介している.
本特集は油圧機器の製造に関する6件の解説記事を掲載している.
「建設機械用油圧機器の製造工程紹介」トランスミッションコントロールバルブに取り付けられる小型バルブモジュールの組み立てから性能試験における課題と解決策について説明している.
「油圧バルブ 砂型鋳造品の製造工程と生産技術」砂型鋳造を用いた油圧コントロールバルブの模型と工程設計,さらに模型の製作,鋳造工程,鋳造の後処理工程について説明している.
「『ピストンポンプ・モータ』を支えるピストンASSYのものづくり技術」ピストンとシューからなるピストンASSYの製造方法を説明している.ピストンの製造では使用する材料,切削加工,熱処理,仕上げ研磨,シューの製造ではボール溶接シューを取り上げている.最後にピストンとシューのかしめ組み立て工程を説明している.
「油圧シールの製造技術」油圧シールの製造工程,ゴム(熱硬化性)とウレタン(熱硬化性と熱可塑性)の成形方法について解説している.
「建設機械用油圧リターンフィルタの製造技術」フィルタのろ過精度,圧力損失および寿命を説明している.さらに,フィルタ性能に影響を及ぼす要素,フィルタ構造と製造工程,ろ材製造の技術を説明している.
「油圧電磁比例制御弁用ソレノイドの製造」油圧用の電磁比例ソレノイドの構造と推力特性,コイルとソレノイドの組み立て,多品種生産ラインの構築について解説している.
新年号は会長田中豊氏と副会長川上幸男氏による年頭の挨拶を掲載している.続いて本特集は空気圧システムが人間を支援する研究・開発に関する6件の解説記事を掲載している.
「ゴム要素を使用したリハビリ用歩行訓練システムの開発」スポンジ・コア・ソフトラバーアクチュエータとベローズアクチュエータの構造と特性を解説している.前者のアクチュエータを高機能靴の中敷きに用い,歩行の計測結果を示している.後者のアクチュエータは歩行機の人体サポート部に作用する力とその傾きの補正に使用できることを述べている.
「姿勢推定と歩行補助を同一PAMで実現する空気圧駆動アシストスーツ:物理リザバー計算の応用」歩行中に駆動しない空気圧ゴム人工筋を推定用リザバーとして利用し,同じ空気圧ゴム人工筋が姿勢推定とアシスト制御を切り替える制御を詳説している.リアルタイム姿勢推定と歩行アシスト制御を行い,左右の股関節の角度推定精度とバルブ切換のタイミングの差を評価した結果を解説している.
「空気圧装置の支援を受ける疑似高齢者の運動解析」前方ステッピング戦略に伴う運動に対するモーションキャプチャの計測方法を述べ,キャプチャデータを用いた逆運動学解析および逆動力学解析を説明し,空気圧装置の有効な支援結果を示している.
「理学療法支援を目指した空気圧式足関節運動装置の開発」空気圧ソフトアクチュエータを用いた足関節運動装置の構造と動作を解説し,この装置を用いた関節可動域の動作試験とストレッチ動作試験の方法および試験結果について説明している.
「伸長型柔軟空気圧アクチュエータを用いたウェアラブル式肩関節リハビリテーション機器」並列配置した6本の空気圧アクチュエータを肩に取り付けた試作機器の動作を実験的に調べた結果を解説し,さらに追加した拘束板,留め具および巻き付き補助具が肩関節に屈曲,伸展,内転および外転の運動を加えられることを説明している.
「墜落制止用器具をパワーアシストロボット化するためのベルト部分後付け型人口筋の性能向上に関する基礎的研究」試作した空気圧ゴム人工筋の構造と動作原理を解説し,空気圧ゴム人工筋の収縮量と収縮力の関係を説明している.さらに空気圧ゴム人工筋をハーネス型墜落制止用器具に取り付け,人体に装着した際の装着性について述べている.
本特集は空気圧機器の生産技術に関する5件の解説記事を掲載している.
「協働ロボットとエア機器を使用した省人化」協働ロボットの導入と自動化の事例,制御システムの簡素化,周辺装置の汎用化,安全対策について説明している.
「組立装置の汎用機化」都度設計と製作の現状と課題と汎用機化による効果を述べ,汎用機化の事例として組立工程にレーザー印字機,圧入機およびパレタイザを取り上げて,設備の経費の削減と設備の立ち上げ期間の短縮化などを説明している.
「空気圧機器に使用されている空気圧用シールの材料について」空気圧機器におけるシールの役割と求められる特性を解説し,6種のゴム材料とプラスチック材料の特性およびこれらの使用例を説明している.
「デジタル技術による生産ライン立ち上げの効率化」生産ライン立ち上げにデジタル技術である3D生産レイアウトツールや3D CADなどを活用した事例を解説している.
「双腕型協働ロボットを活用したモノづくり」双腕ロボットを導入した背景を説明し,生産の準備,設備導入の効率化に向けたシステム構成と取り組みについて詳説している.
会誌の記事をご投稿いただいた著者の皆様に厚く御礼申し上げる.これまで発行した会誌のバックナンバーは本学会HP ( https://jfps.jp/03_04.html )において検索することができる.以上で紹介した会誌第56巻第3号から第57巻第2号は学会ホームページにおいて順次公開の予定であり,本稿で説明しきれていない内容を閲覧し,さらに研究・開発にご活用いただけると幸いである.編集委員会において本会誌の内容の充実および発展を編集委員が誠意取り組んでいるが,ご提案いただけることがあると推察しており,会員の皆様からのご希望やご要望をお待ちしている.末筆にて,編集委員会の委員各位,編集事務局および学会事務局の皆様には多大なるご支援を賜り,深く感謝申し上げる.
むらまつ ひさみ
村松 久巳 君
1989年東京理科大学大学院工学研究科機械工学専攻博士課程修了.沼津工業高等専門学校 機械工学科 助手,講師,助教授,准教授を経て,2008年機械工学科 教授 2024年名誉教授,現在に至る.2016年から2020年 日本フルードパワーシステム学会理事,会計委員長,編集副委員長,2022年から2024年 評議員,2024年から現在 理事,編集委員長,空気圧工学の研究に従事.日本フルードパワーシステム学会,日本機械学会などの会員.工学博士.
E-mail: muramatu@numazu-ct.ac.jp