本稿では,2025年度に開催された本学会主催の春季および秋季講演会,日本機械学会ロボティクスメカトロニクス講演会,日本ロボット学会学術講演会の中から,空気圧分野に関する研究動向を調査し,著者の独断的な主観に基づき,これらの講演での空気圧分野における動向を「トレンド」として分類し,いくつかの例を挙げて紹介する.
本学会の春季および秋季講演会で発表されたの全講演99件中,空気圧のセッションで発表された講演は,特別講演を含め56件あり,全体の57%に相当する.また,56件の16件(25%)が岡山理科大学からの講演であり,さらに中四国に存在する大学からの講演は30件(全体の54%)と中四国地区で空気圧関連の研究が盛んに行われていることがテータからも伺える.両講演会での空気圧分野の2025年度の研究トレンドを,AIによる分析も含め,大きく5つに分類して紹介する.
1つは【柔軟性を活かした人間・生物支援(ソフトロボティクス)】であり,56件の講演中で最も多く,空気圧の「柔らかさ」という強みを最大限に活かした応用である.これらは,リハビリテーションや生活支援機器などであり,足や肩関節などに他動運動を加える健康支援機器(図1参照)1),下肢不自由児向けの機器など,特定の部位や対象に特化したデバイス開発が多く報告されていた.また,人間だけでなく,大型家畜の出産支援(図2参照)2)や排泄補助車いすなど,ニッチかつ切実なニーズへの応用も報告があった.
2つ目は,【デジタルファブリケーションとの融合】であり,岡山大学を中心とした研究グループによる3Dプリンタの活用した漏れのない空気圧管路の新たな造形処理方法に注目が浴びている3).
3つ目は,【超精密・高速制御への挑戦】であり,徳島大学を中心としたナノ精度での超精密位置決め(図3参照)が2025年度の研究のトレンドになっている4).この技術は,同年に特許公開となった摩擦補償技術により汎用空気圧アクチュエータを用いても,リニアタイプでナノレベルでの変位,ロータリタイプで1/1000度レベルでの角度の制御が可能で,「空気圧は制御が難しい」という定説を覆す技術革新を起こした制御則である.図3に示すように最初の補償器が力学的平衡状態を厳密に生成し,続いて制御信号への補償器がダイレクトに摩擦対策を行うというものである.電動アクチュエータでも実現が難しい高精度の位置決めが可能で,さらにモータの発熱などの問題がない点から熱変形を嫌う半導体製造分野への応用が期待される技術であり,2025年度を代表する技術の一つといえる.
4つ目は,【インフラ点検・極限環境ロボット】であり,岡山理科大学や中央大学を中心とした研究グループによる配管検査ロボット5)や,はしご昇降による探査など,災害現場や建設現場を想定した柔軟アームを有する移動ロボット(図4参照)を原子炉内など,極限環境で使用することを想定したロボットが報告されていた6).
5つ目は,【スマート化と省エネルギ】であり,位置センサを使わない推定技術として,エアパワーメータを用いた故障診断7)など,システムの簡素化・スマート化が図られていた.さらに,秋田県立大の小林らによる真空ポンプを用いたアクチュエータ内部の空気の循環による電動と空気圧のハイブリッド駆動により省エネを実現する手法8)や,香川大学佐々木らによるタンクを用いたエネルギ回生など,環境負荷低減を意識した研究9)が報告されていた.
以上のように,かつての「力強いが制御は大まか」という空気圧のイメージを払拭し,「柔らかく+賢く+精密で+誰でも(3Dプリンタで)作れる」次世代の駆動技術へとシフトしているのが2025年度のトレントと思われる.
日本機械学会主催のロボットメカトロニクス講演会での関連講演では,「フルードパワーロボティクス」のOSで10件の講演があり,その半数以上が空気圧に関する研究報告であった.これ以外にも著者が調べた限りで「空気圧」や「エア」をタイトルとして用いた研究が20件以上あり,この分野での空気圧の利用したシステムの開発が盛んに行われていることが推察できる.この講演会での4つのトレンドを以下に述べる.
1つは【ウェアラブル・アシスト技術の深化】であり,中腰支援,階段昇段支援,歩行リハビリなど,「人間の動作を直接サポートする」機器の開発が多く報告されていた.
2つ目はJFPSの講演会と同様に【バイオミメティクス(生物模倣)と柔軟ロボティクス】であり,中央大学のグループによるミミズのような蠕動運動10)や,生物の構造を模したアクチュエータの研究開発・応用が報告されていた11).
3つ目は,【触覚提示とVR/UXへの応用(Haptics)】であり,空気の噴射や振動を利用して,人間に感触やトルクを伝える研究が報告されていた12).
4つ目は,最近の急速に発展を遂げている【機械学習(AI)との融合】であり,物体の状態推定や濡れ性評価において機械学習を活用する例が報告されている.
以上,著者が空気圧関連の講演として認識した講演は中央大学など21団体など多くの研究グループによる報告があった.
日本ロボット学会の講演会において,著者の独自の判断で空気圧関連と思われる講演は,岡山大学や徳島大学,立命館大学などを含め13の大学・高専からの15件の報告があった.ロボット学会でも空気圧技術が「単なる駆動源」から「知能や機能を持つ柔軟デバイス」へと進化することを期待される講演が多くあり,以下の3つのトレンドがあるものと感じられた.
1つは,【剛性(硬さ)の能動的なコントロール】であり,空気ばねやSMP(形状記憶ポリマー),ソフトフィンガーなどを使い,関節や指先の「硬さ」をリアルタイムで制御する研究などの報告があった13).これにより,人間との接触時の安全性と作業時の正確性を両立させようとしていた.
2つ目は【「身体への親和性」を追求したウェアラブル・スポーツ応用】であり,「身体に巻き付くデバイス」や「ランニング用スーツ」など,生活やスポーツの動作を拡張する試みがあった14).また,装着型デバイス特有の課題である「位置ずれの補正」といった実用化に向けた研究報告もあった.
3つ目は【モデル化と学習による「制御の難しさ」の克服】であり,空気圧は非線形(動きが複雑)で制御が難しいとされるが,これを理論(モデル化)と最新技術(AI・学習)で解決する試みで,学習ベースでの「動力学推定(農工大)」15)や,圧電ブロア・ポペットバルブといった「新しい空気圧制御機器」の精密なモデル化が報告されていた.
以上,本稿では2025度に報告された空気圧分野の研究動向を【トレンド】として表すことで,概念的に理解しやすい分類により紹介した.特に2025年は,従来の「空気圧は制御が難しい」という定説を覆す技術革新を起こした摩擦補償技術が特許公開されたことや,まだ詳細な公開はないものの,フィラメントを用いた一般的な3Dプリンタによる造形でも,後処理により漏れのない空気回路を生成できるなど革新的な技術が紹介された重要な年度だと著者は感じている.今後,これら紹介した技術に引けを取らない空気圧分野の革新的な技術や応用が開拓され,空気圧分野の研究がより活発に行われていくことを強く願うものである.
1) 難波祐紀他:伸長型柔軟空気圧アクチュエータを用いたウェアラブル式肩関節リハビリテーション機器の開発,JFPS2025年春季講演会講演論文集,(2025),pp.23/25.
2) 三木英資他:大型家畜動物の出産支援を考慮した空気圧駆動パワードスーツの開発,JFPS 2025年秋季講演会講演論文集,(2025),pp.114/116.
3) 山口大介他:熱溶融積層方式(FDM)3Dプリンタ製部品の内部隔壁気密性に対する空気漏れゼロ後処理の評価,JFPS 2025年秋季講演会講演論文集,(2025),pp.10/12.
4) 高岩昌弘:汎用型空気圧アクチュエータの超精密位置決め制御〜サブナノへの挑戦と産業応用展開に向けて〜,JFPS 2025年春季講演会講演会特別講演,(2025).
5) 石橋卓実他:軸繊維拘束型EFPA を用いた細径配管検査ロボットの試作,JFPS2025年春季講演会講演論文集,(2025),pp.17/19.
6) 猿田拓士他:タコの水平歩容に着想を得た水平移動可能なはしご昇降ロボットの提案,JFPS 2025年秋季講演会講演論文集,(2025),pp.111/113.
7) 田村享大他.: エアパワーメータを用いたソフトグリッパの故障診断に関する基礎研究,JFPS 2025年秋季講演会講演論文集,(2025),pp.42/44.
8) 小林卓巳他: 多段圧縮機構を用いた小型・静音コンプレッサの解析と特性, JFPS 2025年秋季講演会講演論文集,(2025),pp.1/3.
9) 佐々木大輔他: 積層型容積可変タンクを用いた回生機能を有する空気圧供給システム, JFPS 2025年春季講演会講演論文集,(2025),pp.91/93.
10) 鈴木陽介他:空気噴射とアースオーガを用いた蠕動運動型掘削ロボットにおける推進機構の開発 −推進機構の特性評価−,ROBOMECH2025講演論文集,(2025),2A2-F05.pdf,pp.1/4.
11) 浅井悠香他:跳躍用座屈形状ゴム空気圧アクチュエータの開発,ROBOMECH2025講演論文集,(2025),2A2-L07.pdf,pp.1/4.
12) 大原浩務他:空気噴出による力覚提示手法を用いたトルク提示の検討,ROBOMECH2025講演論文集,(2025),1A1-T12.pdf,pp.1/3.
13) 岡本泰樹他:空気式ソフトフィンガーにおける可変剛性機能の実現,第43回日本ロボット学会学術講演会講演論文集,(2025),2K3-01.pdf,pp.1/3.
14) 中野竣太他:伸縮動作によって身体に巻き付く空気圧駆動型デバイスの開発,第43回日本ロボット学会学術講演会講演論文集,(2025),1N2-04.pdf,pp.1/3.
15) 當別當耀他:把持力による力学的干渉を考慮した空気圧駆動ロボット鉗子の学習ベース動力学推定,第32回日本ロボット学会学術講演会講演論文集,(2025),2M2-03.pdf,pp.1/3.
あかぎ てつや
赤木 徹也君
1998年岡山理科大学大学院博士課程修了.同年津山工業高等専門学校助手.2005年岡山理科大学工学部講師,2010年文部科学大臣表彰「若手科学者賞」受賞,2013年同教授,2022年情報理工学部教授,現在に至る.ソフトアクチュエータ,組込み技術を用いたウェアラブル空気圧制御機器の研究に従事.日本フルードパワーシステム学会,日本機械学会,計測自動制御学会などの会員.博士(工学).
email:akagi@ous.ac.jp

図1 ウェアラブル式肩関節リハビリテーション機器1)

図2 家畜出産支援用パワーアシストスーツ2)

図3 汎用空気圧シリンダを用いた超精密位置決め4)

図4 柔軟ロボットアームを用いた検査ロボット6)

図5 真空ポンプを用いた多段増幅と空気循環式駆動8)