展 望

 

2025年度の水圧分野の研究活動の動向*

 

伊藤 和寿**

 

* 202661日原稿受付

**芝浦工業大学 システム理工学部,〒337-8570埼玉県さいたま市見沼区深作307

 


1.はじめに

本報では,2025年度に報告された水圧機器およびシステム制御に関する研究動向をまとめる.環境適合性,非可燃性,耐放射線性を背景に,高圧・大流量化,水の低粘性に起因する漏れ・摩耗対策,キャビテーション対策,高応答弁制御,および機器診断技術に関する研究が活発に行われたことが読み取れる.特に中国からは高圧水圧弁,高速オンオフ弁,水圧マニピュレータ,診断技術など,多くの実験結果を伴う研究が目立つ一方,日本からは廃炉作業や高放射線環境を想定したロボット・アクチュエータ応用が報告されている.

2.制御およびロボット応用に関する研究成果

 鶴原・伊藤らは,水道水圧駆動人工筋の高精度変位制御を目的として,A-FRITAdaptive Fictitious Reference Iterative Tuning)に基づくデータ駆動型適応モデルマッチングとモデル予測制御を階層的に組み合わせた手法を提案した.従来のFRITベースMPCModel Predictive Control)は入力制約を扱える一方,事前実験データや初期ゲインに性能が依存し,A-FRITは適応機構を有するために入力制約を設計段階で直接扱いにくいという課題があった.本研究は両者を統合し,実験によりロバスト性を検証している.人工筋のヒステリシスや負荷依存性を明示的物理モデルなしに扱いながら入力制約を守る点は実用上重要である.

Yangらは,原子力施設などの汚染を避ける必要がある環境を想定し,7自由度水圧マニピュレータと,水圧高速オンオフ弁制御によるシリンダシステムを開発した.MaxwellAMESimSimulinkによる連成シミュレーションを用い,電磁特性,弁運動,アクチュエータ応答を統合的に評価している.制御では,二重電圧・可変周波数駆動により不感帯と飽和領域を緩和し,多重スライディングモード制御により水圧シリンダの非対称特性に対応している.実験では約0.5 mm以内の変位誤差を達成しているほか,高圧模擬環境でも安定動作を確認しており,水圧高速オンオフ弁を用いた関節制御の実用性を高めた研究である.

渡辺・玄らは,Air-Hydro Servo Boosterを用いた単軸水圧ロボットアームに対し,カルマンフィルタに基づく故障検出・故障分離および耐故障制御を実験的に検証した.圧力センサや変位センサの冗長性を利用して誤差を求め,マハラノビス距離により異常度を評価する構成である.対象故障はセンサ断線,シリンダ内部摩擦の変動,外乱トルクであり,センサ故障時には当該センサを切り離して制御を継続できることを示している.

山川らは,原子力発電所内での遠隔操作水圧ロボットを想定し,水圧供給チューブを信号伝送路として用いる通信・制御法を提案した.水圧にパルス状信号を重畳し,ロボット側で圧力変動を検出して分配ユニットを制御する方式であり,高放射線環境で電気信号線や半導体通信機器の使用に制約が課される場合に有効である.実験では18種類の信号パターンを約190 msで伝送可能であることを確認しており,8自由度アームへの適用可能性を示している.長尺配管,分岐配管,外乱圧力下での信号識別性が今後の検討課題である.

3.水圧弁・弁制御に関する研究成果

Wangらは,高圧・大流量・高周波応答を要求される水圧システム向けに,水圧比例流量弁を提案した.低圧小流量の油圧サーボ弁で高圧大流量の水圧メインスプールを制御する多段構成を採用し,信頼性と応答性の向上を図っている.メインスプール変位と出力流量の数学モデルを構築し,間接変位計測法により高圧大流量環境での動特性を評価した.実験では30 ms程度の立ち上がり時間を実現し,25 Hz程度の応答も示している.高圧水圧系で困難な動特性計測を可能にした点は有用であり,今後は耐久性やキャビテーションを含む長期評価が望まれる.

Yangらは,水圧高速オンオフ弁の開閉時間を短縮し,周囲圧力が変化しても動特性を一定に保つような圧力適応型多段電圧・スライディングモード制御を提案した.コイル電流をフィードバックし,予備開弁電流と保持電流を制御することで,弁の遅れ時間と移動時間を調整する構成である.圧力センサと振動センサを組み合わせた動特性計測法も提案している.実験では従来PWM駆動に比べ,開弁時間を86.3%,閉弁時間を87.5%短縮し,020 MPaの範囲でも動特性を安定に維持している.水中・高圧環境での水圧マニピュレータ制御に直結する成果である.

Zhangらは,水圧システムの実用化を妨げる漏れ問題に対し,接触型動的シール構造をもつ三位置四方水圧方向切換弁を提案した.スプール肩部とシールリングにより,各作動位置に応じたシール対を形成する構造であり,従来の隙間シール型スプール弁より高圧での漏れを抑制できる.試作弁は25 MPaまで問題なく作動し,中立位置および作動位置で良好な圧力保持を示している.高応答サーボ弁ではなく,高圧・高シール性の方向切換弁として位置づけられる.ただし,シールリングの弾性変形に起因する中立点への復帰が十分でない点も確認されており,耐久性と摩擦増大を含む長期評価が必要である.

4.診断・予測および機械学習に関する研究成果

Hongらは,水圧マニピュレータ用高速オンオフ弁の性能劣化予測に対し,物理情報を組み込んだCNN-BiLSTM-Attentionモデルを提案した.高速オンオフ弁の劣化は電磁系,機械運動,流体系が結合した複雑な現象であるため,純粋なデータ駆動モデルでは外挿信頼性が不足しやすい.本研究では,AMESimによる多物理等価モデルを用いて劣化機構を分析し,物理制約を損失関数に導入している.実験ではRMSの値で誤差が従来モデルより30.27%低減しており,物理モデルと深層学習を融合したPHM技術として有効性を示している.異なる弁構造や圧力条件への汎化性能の確認が今後の課題である.

Yinらは,水圧アキシャルピストンポンプのキャビテーション検出におけるサンプリング数低減に対し,物理情報を利用したCNNデータ拡張とXGBoost分類器を組み合わせた診断法を提案した.キャビテーション機構とCFD解析に基づき三段階の分類を定義し,圧力信号と振動信号の相関を利用して生成データを作成している.実測データと生成データを組み合わせた分類では98.95%の精度を達成し,元データのみの場合より精度が向上した.故障データ取得が困難な水圧ポンプ診断において,物理整合データの拡張の有効性を示した研究である.

5.ポンプ・モータおよびトライボロジーに関する研究成果

竹本らは,ラジアルピストンポンプのスリッパ軸受について,軸偏心を除外した条件で実験とFEM解析により潤滑状態とロバスト性を評価した.試験装置により,スリッパと軸のすき間,ポケット圧力,潤滑流量を測定し,2000 rpm以下,15 MPa以下で流体潤滑が成立することを確認した.また,くさび膜効果によりスリッパが傾いた状態で作動することを示している.外部モーメントに対する接触リスクを踏まえ,非対称スリッパ形状によるロバスト性向上も検討している.

Ţăluは,水圧アキシャルピストンポンプの摩擦対におけるトライボロジー機構を,流体潤滑効果,キャビテーション効果,摩耗粉保持の三点から整理した.水潤滑では,低粘度,低潤滑性,高蒸気圧により油圧ポンプの設計論をそのまま適用しにくい.本稿では,表面テクスチャが局所的な圧力上昇を生み,流体膜の安定化と荷重支持性向上に寄与すること,また微細凹部が摩耗粉を捕捉し,アブレシブ摩耗を抑制することを示している.

鈴木は,廃炉作業ロボット駆動を想定し,小型で正逆回転可能なロータリーピストン型水圧モータを開発し,性能評価を行った.ロータリーピストン形式により,ハウジング内を回転するピストンの移動でポート切替を行い,特別な弁機構を不要とする構造を取っている.JIS B 8348に基づく試験方法を用い,出力軸にディスクブレーキを接続して負荷トルクを測定している.性能試験では容積効率は最大で30%程度,機械効率は最大で20%程度であり,水道圧0.4 MPaでも10分以上の連続回転と正逆回転が可能であることを示した.

 鈴木は,カム機構を用いたラジアルピストン型水圧モータに対し,回転円板型分配弁の構造変更による効率改善を行った.従来構造ではしゅう動部すき間の増加により漏れ流量が増え,容積効率が低下していたが,本研究ではパッキンを用いずに摩擦損失を抑え,圧力補償ポケットにより圧力変形とすき間拡大を抑制する構成としている.性能試験では,圧力補償ポケットにより容積効率を大きく低下させずに締付トルクを小さくでき,低回転域の機械効率向上が確認された.ただし,容積効率と機械効率にはなお改善余地があり,シール性向上が主要課題である.

6.むすびに

 以上の13件の研究成果より,2025年度の水圧分野では,高圧・高応答弁,方向切換弁,分配弁,ポンプ摩擦対,水圧モータなどの要素技術が進展し,原子力施設,廃炉作業,水中・高圧環境を想定したロボットへの応用も行われたことが分かる.また,キャビテーション検出やHSV劣化予測では,物理モデルと機械学習を融合する研究動向も確認され,信頼性評価の新しい方向性を示している.水圧技術は,漏れ,潤滑性不足,キャビテーション,腐食という課題を抱える一方,環境適合性,非可燃性,耐放射線性という利点が大きい.今後は,個別要素の性能向上に加え,長期耐久性,多自由度ロボットシステムとしての統合実証が重要になると考えられる.

 

参考文献

1)    Tsuruhara, S., Ito, K., Hierarchical-Type Model Predictive Control and Experimental Evaluation for a Water-Hydraulic Artificial Muscle with Direct Data-Driven Adaptive Model Matching, International Journal of Automation Technology, Vol. 19, No. 3, p. 291-303 (2025), DOI: 10.20965/ijat.2025.p0291

2)    Yang, X., Wu, D., Gao, H., Liu, Y., Position control of water hydraulic high-speed on-off valves-controlled cylinder of water hydraulic manipulator, Nuclear Engineering and Design, Vol. 442, 114235 (2025), DOI: 10.1016/j.nucengdes.2025.114235

3)    Watanabe, Y., Hyon, S.-H., Experimental Evaluation of Kalman Filter-based Fault Detection and Fault-Tolerant Control on a Water Hydraulic Robot Arm, JFPS International Journal of Fluid Power System, Vol. 18, No. 1, p. 83-89 (2025), DOI: 10.5739/jfpsij.18.83

4)    Yamakawa, H., Ichiwara, H., Suzuki, K., Kobayashi, R., Nagai, T., Communication and Control Method via Pressure Supply Tube for Teleoperation Hydraulic Robot, JFPS International Journal of Fluid Power System, Vol. 18, No. 1, p. 75-82 (2025), DOI: 10.5739/jfpsij.18.75

5)    Wang, H., Cao, C., Zhao, J., Yu, M., Zhang, Y., Research on dynamic characteristics of a novel high-frequency water hydraulic proportional flow valve, Flow Measurement and Instrumentation, Vol. 104, 102893 (2025), DOI: 10.1016/j.flowmeasinst.2025.102893

6)    Yang, X., Zhang, B., Wu, D., Liu, Y., Fast switching and dynamic characteristics preservation of water hydraulic high-speed on-off valve using pressure-adaptive multistage voltage and sliding mode control, Mechatronics, Vol. 110, 103384 (2025), DOI: 10.1016/j.mechatronics.2025.103384

7)    Zhang, X., Fan, X., Liang, J., Chen, K., Gao, D., Wang, Z., Xu, H., Gao, M., Experimental study on a three-position four-way water hydraulic directional valve with a novel sealing structure, Scientific Reports, Vol. 15, 20561 (2025), DOI: 10.1038/s41598-025-05506-y

8)    Hong, R., Nie, S., Ji, H., Ma, Z., Physics-informed machine learning for high-speed on/off valve performance degradation prediction in water hydraulic manipulator, Reliability Engineering & System Safety, Vol. 261, 111106 (2025), DOI: 10.1016/j.ress.2025.111106

9)    Takemoto, S., Kitamoto, Y., Nojima, Y., Kazama, T., Optimal design of slippers in a radial piston pump (Experiment and simulation under concentric conditions), Mechanical Engineering Journal, Vol. 12, No. 4, 25-00067 (2025), DOI: 10.1299/mej.25-00067

10) Yin, F., Ma, Z., Zhang, Y., Ma, Z., Nie, S., Ji, H., Cavitation detection for water hydraulic axial piston pump based on physics-informed CNN data augmentation and XGBoost, Mechanical Systems and Signal Processing, Vol. 241, 113512 (2025), DOI: 10.1016/j.ymssp.2025.113512

11) Ţălu, S., Tribological Mechanisms in Water Hydraulic Axial Piston Pumps: Insights into Lubrication, Cavitation, and Wear Control, HIDRAULICA, No. 2/2025, p. 7-18 (2025)

12) 鈴木健児,ロータリーピストン型水圧モータの開発及び性能測定,ロボティクス・メカトロニクス講演会2025講演論文集, 1A1-O02 (2025), DOI: 10.1299/jsmermd.2025.1A1-O02

13) 鈴木健児,カム機構を用いた水圧モータの回転円板型分配弁の構造変更による効率改善,日本機械学会2025年度年次大会講演論文集, No. 25-1 (2025)

 

著者紹介

いとう かずひさ

伊藤 和寿君

1995年上智大学大学院理工学研究科機械工学専攻博士前期課程修了.同年コマツ入社.2001年上智大学大学院理工学研究科機械工学専攻博士後期課程修了,同年同大学理工学部機械工学科助手.鳥取大学准教授を経て,2011年芝浦工業大学システム理工学部機械制御システム学科教授,現在に至る.非線形制御理論とその機械システムへの応用,水道水を用いた環境融和型水圧システムの制御と省エネルギー化の研究,農業工学の実応用に関する研究に従事.日本フルードパワーシステム学会,計測自動制御学会,生物環境工学会の会員.博士(工学)

email:kazu-ito@shibaura-it.ac.jp