解 説

 

2025年度学術論文賞を受賞して*

 

趙 菲菲**

 

* 202665日原稿受付

**岡山理科大学700-0005岡山県岡山市北区理大町1-1

 


1.はじめに

このたびは,栄誉ある2025年度日本フルードパワーシステム学会学術論文賞を賜り,大変光栄に存じます.本研究を進めるにあたり,多大なる努力と優れた研究成果を上げてくれた足立悠真君(当時 岡山理科大学大学院学生,現 SMC株式会社)ならびに研究協力をいただきました赤木徹也教授,堂田周治郎名誉教授,篠原隆講師,横田雅司講師,石橋卓実君(当時 岡山理科大学大学院学生,現 SMC株式会社)には,深く感謝申し上げます。また,本研究に携わる中でご指導・ご支援を賜りました関係者の皆様にも,厚く御礼申し上げます.今回の受賞を励みに,今後もより一層研究活動に邁進し,社会に貢献できる研究成果の創出に努めてまいります.本稿では,受賞論文「Development of Vertical Compressible Cushion-type Soft Actuator Using Extension-type Flexible Pneumatic Actuators for Seat Simulator」の概要を紹介いたします.

2.背景および先行研究

 ビデオゲームを楽しみながら体幹訓練を行う医療・ヘルスケア機器1)4)として,搭乗者に移動クッションのような並進移動,回転運動,傾斜角および振動を与えることが可能な,6脚空気圧駆動移動ロボットを開発した.本研究では,シートシミュレータにより適したアクチュエータの開発を目的として,解析モデルに基づき,6本の伸張型柔軟空気圧アクチュエータExtension-type Flexible Pneumatic Actuator: EFPA3本のコイルばねから構成される垂直圧縮可能クッション型アクチュエータVertical Compressible Cushion-type Actuator: VCCAを提案し,その性能評価を行った.さらに,耐荷重性能を向上させるため,6本のEFPA6本のコイルばねから構成される改良型VCCAを提案し,性能評価を実施した.その結果,改良型VCCAは垂直方向の圧縮性を有しながらも,6方向の並進運動,屈曲運動,および上下動作を実現可能であることを確認した.

Fig.1に伸長型柔軟空気圧アクチュエータ(EFPA)の構造5)7)を示す.EFPAはシリコーンゴムチューブ(-外径:8-11o)を蛇腹状のナイロン製スリーブで覆った単純な構造を有し,非常に安価なソフトアクチュエータである.動作原理は印加圧力により内部のチューブが膨れるが,スリーブにより軸方向だけの変形に拘束されるため,0.4 MPaの印加圧力で約2.5倍伸長する.引張力はゴムチューブの弾性に依存し,最大約60 Nと比較的大きいが,単体での曲げ剛性が小さく,押出し力を利用しにくい欠点も有する.Fig.2に四面体型柔軟アクチュエータ(TFA)を脚として利用した6脚移動ロボットの側面と正面写真を示す.ロボット脚となるTFA3本のEFPAを四面体の3辺に配置し,蛇腹を利用して10枚の拘束板で四面体状に拘束したアクチュエータである.TFA1本および2本のEFPAを加圧することで三角形の重心から放射状に60度毎の湾曲動作ができ,さらに全加圧で伸長動作が可能である.ロボットは,PCからシリアル通信ケーブルを通して送られたコードをもとにあらかじめプログラムされたシーケンスプログラムに従って弁を駆動し,操作され,6方向への並進運動や時計/反時計回りの回転などの動作を実現できる.

3.シミュレータのためのアクチュエータ解析

前述のように6脚移動ロボットは,人を乗せた状態で6方向への並進と時計回り半時計回りの回転と12方向への傾斜動作が可能である.しかし,ロボットは,VRゴーグルを装着した状態での使用を想定しており,座面の運動を与える際に必ずしも機器本体が設置場所から移動する必要がない.そこで、以下の仕様を満たすアクチュエータの開発をめざす.1) クッション性を与えるため垂直方向の圧縮性を有する.2)並進力、傾斜角,振動を与えることができる.3) 移動する必要はない.4) 使用者の安全のため柔軟である.これらの仕様に従ってアクチュエータの運動を予測する解析モデルを提案する。Fig.3Fig.4に提案するクッション型VCCAの解析モデルを示す.

 

提案アクチュエータは2枚の厚さ5 mmのアクリル円板,6本のEFPA3本の圧縮コイルバネ(外径20 mm,長さ12 mm,ばね定数200 N/m)から構成される.6本のEFPAは,円板に対し半径2065 mmの位置に設置角度が45度で交差するように放射状に配置され,3本のコイルバネは圧縮された状態で中心から半径65 mmの位置に60度毎にアクリル円板に固定されている.アクチュエータは圧縮バネにより垂直負荷を支えクッション性を与えることができる.また,以下の仮定を設けてFig.4に示す力平衡解析モデルを作成し,EFPAへの印加圧力とVCCAの並進や垂直変位の関係を予測することができた.なお,ここでは解析式の詳細は略す.

1) 上部プレートはx, y, z方向に移動するが回転や傾斜はしない.

2)  3本のEFPA間の干渉はないものとする.

解析結果に基づいて各EFPAへの印加圧力を与えた実験により,実機においても傾斜することなく並進動作が実現できることを確認した.

4.クッション型アクチュエータVCCAの改良

前述のVCCAEFPAの無加圧状態での耐荷重能力が低いのでバネを増やすことにより高める改良を行った.前述の解析モデルを任意のバネ本数に適用できるよう拡張した.それを用いて計算した印加圧力とVCCA変位の関係をFig.5に示す.この結果から6本バネが適していると判断した.Fig.6に解析結果をもと実際に試作した改良型VCCAの外観を示す.Fig.7に,VCCA2種類の曲げ動作パターンにおける加圧EFPAの配置を示す(図は3本バネであるが動作パターンは6本バネも同じである).ここで,上部プレート中心から40 mmの位置に取り付けられたEFPAを内,上部プレート中心から130 mmの位置に取り付けられたEFPAを外と定義する.Fig.7に示すように,曲げパターン1では2本の内側EFPA1本の外側EFPAを加圧する.一方,曲げパターン2では1本の内側EFPA2本の外側EFPAを加圧する.これらの加圧パターンにより,VCCAの上部プレートに曲げモーメントを発生させ,所望の方向への曲げ動作を実現する.

Fig.8に改良型VCCAの動作の過渡応答を示す.Fig.8の@,AおよびBは,それぞれVCCA内の2本,4本および6本のEFPAを加圧した際の動作の様子を示している.2本のEFPA500 kPaを印加した場合,最大変位はΔx = 17 mmΔy = 9.8 mmおよびΔz = 20.3 mmであった.また,4本のEFPA500 kPaを印加した場合,最大変位はΔx = 22.2 mmΔy = 12.8 mmおよびΔz = 29.5 mmであった.さらに,6本のEFPA350 kPaで加圧した場合,計算による変位Δz34 mm,実験による変位Δz34.2 mmであった.両者はほぼ一致しており,提案した解析モデルの妥当性を確認することができた.

 

Fig.8のCおよびDは,それぞれ曲げパターン1および曲げパターン2における曲げ動作の様子を示している.パターン1およびパターン2では,500 kPa印加時にそれぞれ最大曲げ角度26.0°および26.8°が得られた.また,Eは74 Nの負荷を加えた状態での持ち上げ動作の様子を示している.@を見ると,高さをほとんど変えることなく並進動作が実現されていることが分かる.以上の結果より,60°間隔の6方向への曲げ動作および持ち上げ動作が実現可能であることを確認した.さらに,改良型VCCAは鉛直方向の圧縮性を有しながらも,6方向の並進動作,曲げ動作および持ち上げ動作を実現できることが明らかとなった.

5.結言

本研究は,移動機構を用いることなく,座面に並進力,傾斜角度および振動を与えることができるアクチュエータの開発を目的とした.シートシミュレータ用アクチュエータの設計およびその動作を予測するため,解析モデルを提案した.また,この解析モデルに基づき,6本の伸張型柔軟空気圧アクチュエータEFPA3本のコイルばねで構成される垂直圧縮可能クッション型アクチュエータVCCAを提案し,その性能評価を行った.その結果,加圧するEFPAを切り替えることにより,VCCAの上部プレートが60度間隔の6方向へ水平移動するとともに,60度間隔の6方向へ屈曲動作できることを確認した.さらに,耐荷重性能の向上を目的として,6本のEFPA6本のコイルばねで構成される改良型VCCAを提案し,評価を行った.その結果,VCCAは垂直方向の圧縮性を有しながらも,従来型と同様の水平移動および屈曲動作を実現できることを確認した.今後は,複数のVCCAを組み合わせることで,実際に人が搭乗可能な大きさを有するシートシミュレータの開発を目指す

参考文献

1)Annual Report on the Ageing Society [Summary] FY2022, https://www8.cao.go.jp/kourei/english/annualreport/2022/pdf/2022.pdf, June 2022.

2)Sasaki, D., Noritsugu, T., Yamamoto, H., and Takaiwa, M.: Development of Power Assist Glove using Pneumatic Artificial Rubber Muscle. Journal of the Robotics Society of Japan, Vol. 24, No. 5, pp. 640-646 (2006)

3)Kobayashi, H., Shiban, T., and Ishida, Y.: Realization of all 7 motions for the upper limb by a muscle suit. Journal of Robotics and Mechatronics, Vol. 16, No. 5, pp. 504–512 (2004)

4)Council of Bureau of Social Welfare and Public Health Tokyo Metropolitan Government from, https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/iryo/sonota/riha_iryo/kyougi01/rehabiri24.files/siryou242.pdf; February 2013 (in Japanese).

5)Shimooka, S., Hane, Y., Akagi, T., Dohta, S., Kobayashi, W., Shinohara, T., and Matsui, Y.: Development and Attitude Control of Washable Portable Rehabilitation Device for Wrist without Position Sensor, JFPS International Journal of Fluid Power System, Vol.13, No.3, pp. 25-34 (2020)

6)Tian, W., Jhan, C., Inokuma, M., Akagi, T., Dohta, S., and Shimooka, S.: Development of a Tetrahedral-Shaped Soft Robot Arm as a Wrist Rehabilitation Device Using Extension Type Flexible Pneumatic Actuators, Journal of Robotics and Mechatronics, Vol.32, No.5, pp. 931-938 (2020)

7)Hase, K., Akagi, T.,Dohta, S., Shinohara, T., Kobayashi, W., Shimooka, S., : Development of Six-Legged Mobile Robot Using Tetrahedral Shaped Pneumatic Soft Actuators, International journal of Fluid Power System, vol. 15 , No.1, pp. 33-39 (2022)

著者紹介

ちょう ふぇいふぇい

趙 菲菲

2011年岡山理科大学大学院システム科学専攻博士後期課程修了.国立高専機構津山工業高等専門学校助教,講師,准教授を経て, 2022年岡山理科大学情報理工学部准教授,介護支援ロボット,空圧機器の研究に従事.日本フルードパワーシステム学会,日本機械学会などの会員.博士(工学)

E-mail: f-cho@ous.ac.jp

 

 

 

 

 


 

Fig.1 Schematic diagram of EFPA                           Fig.2 Six-legged mobile robot

 

Fig.3 Analytical design model of proposed actuator    Fig. 4 Analytical model considering force balance

 

 

Fig. 5 Relation between applied pressure and calculated   Fig. 6 Appearance of the improved Vertical Compressible  displacement ∆z  Cushion-type Actuator (VCCA) using six springs

 

Fig. 7 Pressurized EFPAs in two patterns of bending    Fig. 8 Transient views of various motions using the improved  motion of the VCCA VCCA