随 想

 

2025年度学術貢献賞を受賞して*

 

大内 英俊**

 

* 202665日原稿受付

**山梨大学大学院400-8511山梨県甲府市武田4-3-11

 


1.      はじめに

 学術貢献賞を授与するとのご連絡を受け,突然のことに驚くと同時に,学会関係者,これまでの共同研究者の方々に深く感謝申し上げる次第である.東京工業大学(以下,旧名称)大学院で精密工学研究所の池辺洋・中野和夫先生の研究室に所属して両先生のご指導を賜り,卒業後は油圧制御関係の研究と学生の指導に従事した.その後、山梨大学工学部に移り、油圧に加えて,空気圧,圧電アクチュエータ関係の研究を行った.これを機に,これまでの研究を振り返ってみたい.

なお,お世話になった共同研究者の方々には,お名前を参考文献の項に記し,この場をお借りして感謝申し上げる.

2.油圧に関する研究

最初の研究テーマはノズル-フラッパ弁の特性に関するものであった.スプール弁における流体軸力の計算方法を参考にしてフラッパに作用する流体力を解析していたとき,従来の考え方では非定常成分に見落としが生ずることに気が付いた.そこで考察の対象をスプール弁として運動量理論の基礎に立ち戻り,改めて非定常流体力を求める式を確立した1).口頭発表後は関心を持たれた他大学の先生方と意見交換を行い,さらに論文掲載後も何回かの誌上討論があり,関心の深さを実感した.

その後,当初の目的であったノズル-フラッパ弁の高周波特性2)、および自励振動3)について,通常のサーボ弁で使用されているものより大きなモデルを製作し,理論的および実験的な考察を行った。

絞りを通過する高周波域の振動流量を計測するため,ピストン,シリンダ,2台のサーボ弁で構成する流量計を試作した.流量が変動しても絞り下流側シリンダ内の圧力変動を十分小さくするよう,サーボ弁を操作して圧縮性の影響を除去し,ピストン速度から直接流量を得る方法を提案した4)

その頃開発されたPMNと呼ばれる電歪材料を紹介され,それを使ってバイモルフ形のフラッパを製作し,高速サーボ弁を試作した5).続いて、同材料を積層素子としてスプールを直接駆動することで高速化を計った6).いずれも1kHzを超えるバンド幅を達成することができた.

直動形サーボ弁の駆動電流とスプール変位を利用して,静的条件下における弁通過流量,負荷圧力,軸力などの状態量を測定する手法を提案した7).また.直動形サーボ弁のヒステリシス特性,ディザ効果について考察し,PWM駆動によるディザ効果、通過流体から受ける振動のディザ効果,スプールの半径方向の振動の影響などについて考察した8)

油圧ポンプの騒音は,油圧システムを採用するかどうかの評価指標ともなるもので,その低騒音化は重要な課題である.可変容量形ピストンポンプには斜板傾転角制御用のピストンが装備されているので,これを用いて斜板振動をアクティブに制御し,10dB程度の騒音低減効果を得ることができた9).同様のピストン加振力補償を行うことにすれば,制御周波数はピストン本数が偶数の方が低いので,効果も期待できるのではないかと考えた.ピストン本数を9本から8本にしたことで騒音は10dB程度下がり,加振力補償を加えることでさらに5dB程度の騒音低減効果が得られた10)

ファジイモデル規範学習制御によるサーボ系の位置決めに関する研究では,6軸のモーションベースの制御を行った.6軸の油圧系のパラメータを揃えるのは困難であるが,システムの数式モデルがなくても良い制御が可能であることを改めて認識した11)

地球温暖化現象の解明防止を目的として,海洋の深度数千mまでの海水温度、塩分濃度などの観測が世界的な規模で行われており,最終的には6000mまでの観測が必要とされている.そこで必要とされる浮力エンジンの試作機を小型高圧油圧系で開発した12)

3.空気圧に関する研究

 圧電アクチュエータは強力高応答であるが,変位量が少ないので制御弁に使用するには工夫が必要である.そこで,ばねで支持した質量とフラッパを積層素子の負荷としてノズルに接触させ,電圧を急激に印加することで弁体を跳ね飛ばして開度を得る方式の空気圧バルブを試作した.ノズル径1.5mm,供給圧力4×102kPa150Vの電圧を2×3×9mmの素子に間欠的に印加したところ,約2.1mmのフラッパ変位,0.49Nの噴流力を得ることができた13).次に,積層圧電素子に質量負荷を接着し,両者が同時に跳ね上がる方式の弁を試作した.ここでは素子のセンサ機能を利用して弁体の閉位置への戻りを検出し,連続的に打撃力を与えることで通過空気量を制御している.試作弁2個を給気用と排気用に使用して内径25mmのシリンダを供給圧力2MPaで駆動したところ,複数回の打撃を繰り返し,かつ給気と排気のタイミングを調整することで,0.05mm程度の停止位置精度を得ることができた14)

 長ストロークの空気圧シリンダにおいて変位センサの装着が困難な場合に,積載物として同種の物品を端点以外の同一位置へ繰り返して位置決めすることを想定して,その制動法を提案し,停止精度を確認した.シリンダを中間位置で繰り返して停止させてみると,停止位置は徐々にシフトする場合もあるが1回ごとの差は小さいことがわかった.この差の主原因は摩擦特性の不確実性にあると考え,停止位置のばらつきを小さくする停止開始速度の最適値について考察した15).これらの結果をもとに,繰り返し停止精度のさらなる向上を得るため,目標停止位置に設置する近接スイッチの特性を利用することとした.スイッチの近傍に小さなコイルを設置し,スライダ停止時にこのコイルに電流を流してスイッチの感応位置を0.20.4mmずらした.これにより,ストローク1000mmのシリンダにおいて,積載負荷4.5kgのスライダを±0.2mmの精度で繰り返して停止させることができた16)

4.圧電アクチュエータの利用に関する研究

圧電アクチュエータは,出力は強いが変位が小さいので,一般の油圧機器には応用しづらい点がある.一方で,高周波駆動が可能なので,この点を活かし12kHzで駆動する圧電ジェットポンプを試作した.流体は作動油を使用しているが,吐出圧力は低いのでこのテーマは油圧の研究には含めなかった.吐出孔を開けたシリンダ内でピストンを圧電アクチュエータで往復運動させると,吐出時は噴流となって一方向に流れ,吸入時は孔に向かって周囲から流れ込むので,チェック弁を装着することなく,2×3×9mmのアクチュエータ1個で2mを越える高さまで作動油を噴出することができた17)

圧電ジェットポンプの応用の一つとして,粒子の選別装置を試作した.色のみが異なる直径約1mmの粒子をパイプ内に流し,色をセンサで判別し,片方の色の粒子をジェットによって管外に吹き出し,他の色についてはそのまま流す方式とした.色の異なる粒子が二つ以上連続して流れてくると選別が難しかったが、平均的な選別成功率は約95%であった18)

流体は使用しないが圧電アクチュエータの打撃力を利用した微動機構について述べる.小さな慣性体をピアノ線で筐体内側の上面から吊し,同じく筐体内側の側面に接着したアクチュエータで打撃する.使用したアクチュエータは同じく2×3×9mmのもの1個である.打撃力の強弱はパルス状の印加電圧の高さで調整した.筐体の設置角度なども変更し,条件によって前後方向に駆動できることを確認した.筐体への積載可能負荷は4000gまで確認できた19).さらに,この駆動機構の動作について解析し,筐体への打撃力は,側面には瞬時に伝わり,上面にはピアノ線の変形を待って伝わる構造であることから,打撃力の大きさが移動方向を決めていることを明らかにした20)

5.おわりに

大学を退職してから自分の研究を振り返って分類してみたのは初めてのことだった.油圧機器の研究から始めて,電歪素子,圧電素子を通して空気圧関係の研究に進み,ついには流体とは直接関係のない移動機構の研究に移ったことに改めて気が付いた次第である.本学会の発展およびフルードパワー技術のさらなる進歩を祈っている.

 

参考文献

1)    池辺洋,大内英俊:運動量理論への寄与,油圧と空気圧,Vol.8, No.2, p.114-121 (1977)

2)    大内英俊,池辺洋:ノズル-フラッパ弁の高周波特性, 油圧と空気圧, Vol.10, No.2,p.128-134 (1979)

3)    大内英俊,池辺洋:ノズル-フラッパ弁の自励振動, 油圧と空気圧,Vol.11, No.4. p.239-245,254 (1980)

4)    大内英俊,池辺洋:振動流量計測法の一提案,計測自動制御学会論文集,Vol.18, No.10, p.987-991 (1982)

5)    大内英俊,中野和夫,内野研二,野村昭一郎,遠藤弘:電わい素子PMNを用いた高速電気-油圧サーボ弁,油圧と空気圧,Vol.17, No.1, p.74-80 (1986)

6)    Ohuchi, H., Nakano, K., Uchino, K., Endo, H., Hukumoto, H.: High-Speed Electro-Hydraulic Servovalves Using Electrostrictive Ceramic PMN Actuators, Preprint FLUCOME TOKYO’85, Pergamon Press, Vol.1, 415/420 (1985)

7)    黄艶,大内英俊:直動油圧サーボ弁における静的状態量の測定,日本油空圧学会論文集,Vol.30, No.6, p.147-151 (1999)

8)    大内英俊,黄艶,松林恒雄:直動形サーボ弁のヒステリシス特性に関する基礎的研究,日本油空圧学会論文集,Vol.31, No.7, p.183-188 (2000)

9)    大内英俊,増田健二,長田佐:可変容量形ピストンポンプの加振力補償による騒音低減(補償効果の実験的検証),日本フルードパワーシステム学会論文集,Vol.33, No.3, p.76-81 (2002)

10) 増田健二,大内英俊:可変容量形偶数ピストンポンプのアクティブ騒音制御に関する研究(第1報 騒音低減手法の実験的探索),日本フルードパワーシステム学会論文集,Vol.34, No.4, p.79-84 (2003)

11) アイマン アリ,大内英俊,アハメッド アボ・イスマイル:ファジィモデル規範学習制御による電気油圧サーボ系の位置決め,日本フルードパワーシステム学会論文集,Vol.34, No.3, p.66-71 (2003)

12) 浅川賢一,渡健介,大内英俊:小型アキシャルピストンポンプを用いた水中グライダー用浮力エンジンの開発,日本船舶海洋工学会講演会講演論文集,No.17, 2013A-GS27-2, p.397-400 (2013)

13) Ohuchi, H., Suzuki, K., Osada, T.Development of a Pneumatic On/Off Control Valve Using a Flight Hammer, The 3rd JHPS International Symposium on Fluid Power, Yokohama, 349-354 (1996)

14) Ohuchi, H., Maruyama, N., Osada, T. Stepwise Drive of a Pneumatic Cylinder Using a PZT On/Off Valve, The 7th Triennial International Symposium on Fluid Control, Measurement and Visualization, Sorrento, CD_222 (2003)

15) Mustaffa, M.,T.,大内英俊:近接スイッチを利用した空気圧シリンダの繰返し位置決め(第1報,制動法の提案),日本フルードパワーシステム学会論文集,Vol.43, No.4, p.109-115 (2012)

16) Mustaffa, M.,T., Ohuchi, H.: Repeated Positioning of a Pneumatic Cylinder with Enhancing Use of Proximity Switches, International Journal of Automation Technology, Vol.6, No.5, p.662-668 (2012)

17) Ohuchi, H., Wadasako, T.: Basic Characteristics of a PZT Jet Pump, The 10th International Conference on Mechatronics Technology, Mexico City, MN06 (2006)

18) Ohuchi, H., Ishii, T., Muramatsu, S.: Particle Sorting Using a PZT Jet Pump, International Journal of Automation Technology, Vol.4, No.6, p.524-529 (2010)

19) Ohuchi, H., Osada, T.: Reversible Step Motion Mechanism Driven by Impulsive Force of One PZT Actuator, The 10th International Conference on Mechatronics Technology, Ulsan, p.235-239 (2007)

20) Ohuchi, H., Ishii, T., Saito, S.: Driving Characteristics of a Step Motion Mechanism Driven by Impulsive Force of a PZT Actuator, The 14th International Conference on Mechatronics Technology, Osaka, B01 (2010)

著者紹介

おおうち ひでとし

大内 英俊 君

1978年東京工業大学大学院理工学科博士課程単位取得退学,日本学術振興会奨励研究員,1979同大学精密工学研究所助手.1984年山梨大学工学部助教授,2004年同大学大学院教授2015年退職,名誉教授.油圧制御,空気圧制御,圧電アクチュエータの利用に関する研究に従事.日本フルードパワーシステム学会,日本機械学会の会員.工学博士.

E-mail: ohuchi.hdts@gmail.com