資 料
機能性流体スマートフルードパワーシステムに関する基盤研究委員会*
中野 政身**
* 2026年6月4日原稿受付
**SmartTECH Lab.,〒981-0954宮城県仙台市青葉区川平3-42-30
ER流体,MR流体,液晶,EHD流体・ECF,磁性流体,磁気混合流体及び機能性ソフトマテリアルなどは,電場や磁場などの外場に反応して流体の物理化学的性質が変化する機能性流体である.これまで,これらの機能性流体を活用した様々な特徴的なデバイス・システムが提案・実証あるいは実用化されてきている.フルードパワーの分野でも,機能性流体を活用したフルードパワーシステムが種々提案され,振動制御,車両,ロボティクス,MEMS,アクチュエータ等の分野等において研究開発及び実用化の事例も見受けられる.これらの機能性流体を用いたフルードパワーデバイス及びシステムは,その機能性流体のもつ固有の機能を有効に活用することによって,従来になかった機能をもち,かつ高性能化,小型化,高機能化,高速化,さらには知能性など特徴的かつ有意な優位性が付与される可能性を有しており,フルードパワーシステムのスマート化が志向される.
本基盤研究委員会の初年度である2025年度は,第1回と第2回の2回の基盤研究委員会を開催して,委員からの話題提供などを実施して調査研究活動を展開してきている.以下に,各回の基盤研究委員会で講演があった研究成果のテーマとその概要等を列挙して研究活動の報告とする.
2.1 第1回基盤研究委員会(2026年1月30日(金), Zoomによるオンライン開催,15名参加)
(1) ECFマイクロポンプの肺機能チップへの応用(東京科学大学:金俊完 委員)
呼吸器系疾患は,2019年現在,世界の死因の第3位であり対応が急務な疾患であることが指摘された.これに対して非臨床試験の期間とコストがボトルネックである.そこで,生体外で細胞の動的環境を再現できる非臨床試験方法が必要となる.このため,呼吸に伴う肺の動的な伸縮をECF流動で再現可能なLung-on-a-chipが紹介された.双方向駆動可能な六角柱-スリット形ECFポンプを導入することによってウェルのような集積した環境でLung-on-a-chipを高密度,かつ自然呼吸や人工呼吸と同程度の周波数での駆動が可能になる.なお,肺胞を培養するPDMS多孔質膜の製作プロセスも提案している.先行研究に対して機能面の性能向上に加えて駆動源をチップ上に集積化できるため,細胞培養,創薬研究における非臨床試験の大幅な加速が期待できる.肺胞を培養した膜を片側単軸伸展形で,空気圧ではなくECF(油)圧で双方向駆動するデバイスが開発され,そのひずみ5%で〜5 Hz程度の高周波駆動を実現できることが示された.
(2) EHD現象を応用した止血装置の開発(東京電機大学:武井裕輔 委員)
止血部に巻き付け空気圧による加圧により止血を行うターニケットについて,止血が優先され圧力が高めでこれによる痛みなど患者の負担が大きい問題が指摘され,その解決のため開発された電界印加で流れが生じるEHD流体を用いた止血装置が紹介された.まず,シリンジで空気圧を与えるラット用ターニケットが試作され,印加圧力を20〜40 kPaと変え,1〜3日後の運動機能,筋肉の損傷を表すCK(クレアチンキナーゼ)濃度,および酸素飽和度の変化を測定する動物実験が行われ,酸素飽和度で止血度合を計測できること,30 kPa以下では損傷は小さいが40 kPaでは損傷が生じることが示された.次に,ヒト用に,高い圧力の制御が容易な集積形EHDポンプ,およびスリットを入れ均一な圧迫が可能なカフを用いたターニケットが開発された.最後に,40 kPaで加圧し酸素飽和度が低下したとき圧力を20 kPaに切り替える制御系が構築され,患者の負担が小さく,止血効果が得られる臨床試験結果が示された.
(3) 気液相変化アクチュエータ・MR回転ダンパを用いた回転数制御(法政大学:加藤友規 委員)
まず,低沸点の液体を加熱気化させて加圧して駆動するゴム人工筋肉を2個用いた拮抗駆動で,加熱側人工筋肉で冷却側人工筋肉を引っ張ることで応答性を高めた気液相変化アクチュエータを対象に,力と圧力の二重ループのPIフィードバック制御系が構成され,力フィードバックの比例ゲインを増やすことによって,最大0.1 Hz,振幅2Nの力追従制御が良好で,それ以上の周波数では加熱・冷却不足により出力低下,長時間使用の制約が生じることが示された.次に,静圧空気軸受を有するエアタービンスピンドルに対し,ロータ慣性により応答性が低く,加工時の外力や空気軸受の圧力により回転数が変動するなどの欠点を改善する目的で,回転数制御系をメインループとして外乱オブザーバにより推定されたトルクにより補償を行う圧力制御系が構築され,高回転数20,000rpmにおいて高応答性で外力による回転数変化がなくエアパワーも低下する実験結果が示された.最後に,300rpm程度の低速回転領域での駆動を実現するため,MRダンパを用いたエアタービンスピンドルが提案され,パッシブなダンパによる特性改善が示されるとともに,外乱(外力)に対しMRダンパの通電電流で減衰を制御するセミアクティブ手法が提案され,その特性改善とエアパワーの低減が確認された実験結果が紹介された.
2.2 第2回研究委員会(2026年3月12日(木), Zoomによるオンライン開催,14名参加)
(1) MR流体多孔質コンポジットのMR効果のメカニズムと増強(SmartTECH Lab.:中野政身 委員長)
まず,MR流体の分散粒子の沈降などの問題を解決するMR流体多孔質コンポジットが紹介された.C形電磁石の磁極間ギャップ部にMR流体を含侵させた多孔質シート2枚で挟んだスライダ板を配置し,そのスライダ板を往復運動させることにより,MR流体多孔質コンポジットのせん断応力vs歪曲線を測定した試験結果が紹介された.MR流体はMRF-132DG(Lord社製),多孔質材はポリエチレンフォームと不織布で横弾性係数が異なるものを厚さ約0.75 mmで用い,スライダ板としてはアルミと鉄系が試された.その結果,MR流体多孔質コンポジットでは30日経っても沈降が見られないこと,横弾性係数が大きい不織布と鉄系のスライダ板を適用することによりMR流体そのものの1.5〜2倍の高い降伏せん断応力が得られることなどが示された.さらに,MR流体多孔質コンポジットを多層円盤間に配置した回転形ブレーキを用いボールネジを介して直動型ダンパとして建築構造物の免震・制振用に応用された事例が紹介され,その有効性が実験的に示された.次に,MR流体多孔質コンポジットのMR効果のメカニズムの解明について紹介された.MR流体多孔質コンポジットではMR流体単体と異なり2段階の弾性変形挙動を示す.そのメカニズムを表す,摩擦要素,弾性要素,および減衰要素の組を2個直列に接続し,それらに並列に減衰要素を接続した数学モデルが構築され,パラメータ同定を行った結果,その特性をほぼ正確に表すことができることが示された.
(2) 気液二相流の電気流体力学と伝熱応用(名古屋大学:西河原理仁 委員)
はじめに,伝熱の中でも電気力や毛細管力を利用した高速除熱に関する研究に取り組んでいることが紹介され,その中でも,拡大電極での気泡に働く誘電泳動力(DEP)による伝熱促進に関する研究が報告された.不均一電界における分極を利用するnegative DEP(nDEP)、positive DEP(pDEP)の概要が紹介された.気泡は誘電率が低いため電界の弱い方に移動するnDEPを発生する.このnDEPを利用して沸騰を促進する研究が活発に行われており,微小重力環境での沸騰も実現されている例が紹介された.本研究では,壁面が加熱されるマイクロチャネルの中での強制対流沸騰の系でDEPの作用で伝熱促進が試みられた.特に,入口付近の気泡流の制御を対象として電極が設計されている.数値計算の結果,拡大電極が最も適切な電界勾配が生成できることが示された.非圧縮性流体の支配方程式(N-S方程式,連続の式)とガウスの法則を用いて数値シミュレーションで気泡に加わる流体力とDEP力(Maxwel応力の面積分)を同時に計算し,伝熱促進の条件を求めている.また,実験によってこれを確かめた.ただし,この効果は低流量の場合に限られることも指摘された.
なかの まさみ
中野政身君
1982年早稲田大学大学院理工学研究科博士後期課程修了,工学博士.1981年早稲田大学助手,1982年山形大学助手,助教授を経て,1997年同教授,2008年東北大学教授流体科学研究所,2018年〜2023年同教授未来科学技術共同研究センター,2023年〜SmartTECH Lab. 代表取締役社長兼CEO. 機能性流体,流体関連振動・騒音,振動制御などに関わるスマート流体制御システム工学に従事.日本フルードパワーシステム学会(名誉員),日本機械学会(名誉員),日本レオロジー学会などの会員.JABEEフェロー.
e-mail: mnakano@smarttech-lab.com
URL: https://researchmap.jp/read0140793